はじめは日焼けのせいと思った。首のまわりがすこしひりひりとする。海の見えるコンドミニアム13階の窓を開け放し、冷たいものを飲んでいた。ハワイに来て三日目。午前中、一、二時間ほどビーチで過ごし、午後はショッピングに行ってきた。その日の夕刻のことである。
家人に指摘され、鏡を見ると首のまわりに蕁麻疹状に火ぶくれができている。ひりひりちくちくしていたものが、そのうちかゆみを伴うようになってきた。
その日はそのまま寝てしまったが、翌日マウイ島に渡り、ツアーのバスに乗っていると、ガイドの女性がこんなことを言う。
「あれが、マンゴーの木。食べたり飲んだりすると、とてもおいしい。でも、マンゴーはかぶれる人がいるので、ホテルなどでは絶対に出しません。それを知らずにジュースを飲んで、かゆくて病院に駆け込む人がいますが、顔がパンパンに腫れてしまい、もう手遅れ。マンゴーの木はウルシ科なんだそうです」
ぼくは驚いた。昨日は買い物のあと、喉が乾いたので店に入り「マンゴー・チラー」という飲み物を頼んでいたのである。ウェイターはなにも言わなかったし(勧めもしなかったが)、そんな話は寡聞にして知らなかった。ぼくと家人とは瞬間顔を見合わせ、続いてぼくの頭の中には、まんまるに膨れあがった自分の顔が、これ以上ないほどに鮮明な像を結んだ。
顔と首を守るために帰国までもう二度と海辺にもプールにも行けないのかと思うと、すこし暗い気持ちになった。休暇はまだたっぷりと残っている。
だからというわけではないが、休暇中、特に朝晩はよく仕事をした。なにしろ、インターネットが無料、無制限、使い放題だったのである。日本との時差の問題はあるが、打ち合わせも、スケジュールの調整も、原稿のやりとりも、日々のニュースも、なんら支障がない。静かに快適に仕事ができる。聞けば島内の電話は一回35セントで時間無制限のかけ放題だという。
それにしても、別にどこからも電話がかかってくる心配はないので、接続したまま仕事を続ければよさそうなものだが、つないで30分もすると、ぼくはいったん接続を切ってしまっていた。つなぎっぱなしでメールを書いたり原稿をチェックしたりしていると、なぜかだんだん悪いことをしているような気分になってくる。長年の習慣がすっかり澱となって体内に残ってしまったかのようで、なんとも情けない気がした。こんな根性で戦争したら、やっぱり今でもアメリカには負けるだろう。
マンゴーの毒はそれから二日くらいで、中和した。ぼくはまた、家族とビーチに行き、甘く冷たいものを飲み、買い物をした。その単純で快適な生活にやや飽きてきたところで、休暇は終わった。