●滝本竜彦
予想以上にレベルの高い作品が多く、楽しい選考が出来ました。
以下、目についた作品の講評です。
『昼寝/短編小説作品集』
商品にするには完成度が足りなすぎますが、ところどころ目を惹く文章がありました。
『L・P・H』
ライトノベルの文法に則っている作品だったので、安心して読み進むことが出来ました。「おお!」と興奮したシーンも数カ所ありました。ですが悪役の設定が類型的だったり、ヒロインがむやみに強すぎたり、文章がまだまだ粗かったりと、直すべき点が多々あります。もう少し頑張れば、市販ライトノベルの水準に達するので、このまま気合いを入れて頑張りましょう。主人公の造形が魅力的なので、その点をさらに突っ込んで考えれば良い作品になると思います。
『無双学園』
力作ですが、長すぎる上に散漫としています。なぜこれほどまでに長くなってしまったのかと言えば、登場人物たちの頭の悪い推理によって、提示されたミステリーへの回答がむやみに引き延ばされているからでしょう。そんなことをしても読者のイライラが募るだけなので、無意味な謎の引っ張りすぎは良くないと思います。そしてストレスを一気に解消するはずの格闘シーンにも、いまいち迫力がありません。その原因は、おそらく登場人物たちが喋りすぎていることにあるかと思われます。黙って拳で語りあうような、もっと血のたぎる格闘シーンを書いて欲しいです。しかしとにかく力作でした。女性キャラがほとんど登場しないところも潔くて素晴らしいです。
『闘う瞳』
なんといっても出だしが秀逸でした。もし書店でこの出だし数行を読んだなら、迷わずレジに持っていったと思います。読みやすさも抜群で、スラスラ最後まで読み進んでしまいました。しかし問題点もあります。まず第一に、格闘描写が弱いこと。ボクシングの試合を丁寧に描写している点には好感が持てるのですが、世には素晴らしいボクシングマンガが多数溢れています。文章で行動を描写しているだけでは、マンガに勝ち目はありません。もっと小説独自の、小説にしかできない格闘描写を模索するべきかと思います。そして第二の問題は、心情の説明が多すぎることです。登場人物たちが熱い感情に目覚めていく、それは素晴らしいことなのですが、彼らの心の内をひとつひとつ文章で説明してはいけません。心情の変化は、説明ではなく描写によって読者に伝えるべきです。そうすると説教臭さが薄まり、読者の感動もますますパワーアップするに違いありません。
『本格推理委員会』
もっとも商業的に成功する可能性の高い作品として受賞作に推しました。今後は既存のキャラクター造形を用いてゲーム的な小説空間を作り上げる手法を、さらに自覚的に自作に取り入れ、もっともっとハジケた作品をたくさん書きまくって欲しいと思います。
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