第11回ボイルドエッグズ新人賞発表!(10.6.25)

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第11回ボイルドエッグズ新人賞

該当作なし

選考過程
1 第11回ボイルドエッグズ新人賞には、総数48作品のエントリーがありました。第11回エントリー作品
2 慎重な検討の結果、今回は該当作なしとなりました。

第11回ボイルドエッグズ新人賞講評

村上達朗

 前々回の『お稲荷さんが通る』、前回の『オカルトゼネコン富田林組』に続き、今回も受賞作を期待したのですが、残念ながら受賞に値する作品はありませんでした。才能を感じさせる作品・文章がなかったわけではないのですが、小説世界の土台となる構想力に緩みや甘さがあり、商業作品を書き続けられると確信できるだけのものに出会えなかったということです。
 そんな中で気になった作品をいくつか取り上げます。
 
 まず知念実希人氏『放課後のテロリスト』ですが、読み始めてしばらくは、このまま行ってくれたら受賞作になると思いました。校舎の屋上で髪をなびかせていた少女がとんでもないことを計画しているテロリストだったという話で、計画の全体像が見えてくるまでの筆致に、「この人は小説の書き方がわかっている」と思わせるセンスを感じました。問題は小説そのもののが大風呂敷に過ぎることで、後半に行くにしたがって大味になってしまうのです。風呂敷を広げたらそれをきれいに畳まなければならないのですが、広げ過ぎてどうにもならなくなっていました。つまり、小説というものは、設定は大風呂敷でも、主人公たちの置かれた視点から小さく世界を描かなければならないのです。分断国家の統一などという大事を一少女に託してしまうという発想そのものが小説とは相入れないものだと気づいてもらえたら、この方はいずれ新人としてデビューできると思います。
 
 野間賽助氏『鉄塔94』も同じ欠点をもっていました。「鉄塔」という題材そのものには前例もあり、受賞作として押すには問題がありました。ところが、主人公の高校一年生の視点で書かれた文章が簡潔で、とてもよいのです。文章に乗せられて中盤まではすこぶる面白く読んだのですが、鉄塔の上に子供の姿が見えるあたりから、ファンタジーの要素が強くなり、鼻白んでしまいました。青春の淡い恋の切なさも絶妙の距離感で表現できているのに、「鉄塔」に小説的意味を持たせ過ぎるといいますか、物語が主人公の視点を離れていってしまったのが、なんとも惜しいと思いました。改稿すれば受賞作にできるかもとも思いましたが、題材の問題と、ファンタジーの要素が物語と不可分の関係にあるところは修正がむずかしいと考え、断念しました。ただ、この方の文章の書き方はいかにも捨てがたく、捲土重来を期してもらいたいと思います。誤解のないように書き添えますが、小説にファンタジーの要素がいけないと言っているのでなく、この場合はそれがこの小説のよいところをスポイルしてしまっているのです。
 
 川浜正愛氏『ビビコ・ブルー』は一人称の女子高校生の視点でブレなく書かれており、それゆえの面白味は最後まで持続していました。ただ、他人から話しかけられるのを避けるために、主人公は常にイヤホンをしているのですが、相手に対して(独白の形で)いちいちツッコミを入れるシーンがあまりに多く、それがまた耳障りで、鬱陶しいのです。その主人公の苛立ちに終始つきあわされる読者はたまったものではありません。物語の展開も進むほどにつまらなくなるように思いました。主人公と父親、同級生、仕事仲間との関係など、工夫すればもっと面白い話になったのではないか。作者の都合で主人公を動かさず、自由に行動させることができていたら、とても魅力的なセンスの小説になりえたのではないかと思えてなりません。
 
 宮地弘氏『おなじあなのむじなたち』は今回の応募作の中でいちばん面白く読みました。ネットカフェの住人の生態をユーモラスな味も加えて描いた作品です。その淡々、飄々とした文体はかつての深沢七郎を思わせるすばらしさで、現在これほどの文体を体得している作家はそうはいないと思えるほどです。惜しむらくは、話柄が小さい。中篇程度の原稿枚数ということもありますが、物語に住人たちの生態以上の展開、飛躍がないのです。これは小生の考えですが、この作品は当新人賞よりも、文学系のたとえば芥川賞や文藝賞などに向いていると思います。それがよいかとなると、小生はむろんよいとは思いません(笑)。住人たちの面白おかしい生態のなかに、まったく別種の要素や思いもよらない事件など(ファンタジーでもかまいません)を放り込んでやり、その方向に住人たちを巻き込んでやると、躍動感も生まれ、新味ある文学系の小説ができたのではないでしょうか。ないものねだりかもしれませんが、どうせ書くならそのような小説を指向してもらいたいと思います。
 
 以上、簡単ですが今回の講評とします。ここに取り上げなかった応募作・作者にも参考にしてもらえると幸いです。小説というものは誰にでも書けますが、よい小説・面白い小説は誰にでも書けるわけではありません。まして最後まで筆の運びを誤らずに描きあげるのは至難の業です。それだけに、うまく書けたら、これ以上の喜びはないでしょう。さらに精進し、小説の神様に愛される作品を生み出してください。小生も、首を長くしてその成果を待つこととします。

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