第10回ボイルドエッグズ新人賞

受賞の言葉

蒲原二郎

 

 

 ここ数年、なんだか生きていてもあまり面白くありませんでした。景気は悪いし、世の中暗いしで、私は日々を悶々とすごしておりました。特に政治動向については以前政治家の私設秘書をしていたこともあり、心底腹が立っていました。
「あー、ムカつく。本当につまらん世の中だ。みんなどうかしてるんじゃないか? 毎日が仏滅だ」
 それが私の口癖でした。しかしつまらんつまらんと言っていてもそれはしょせん負け犬の遠吠えです。受動的に生きている人間のくだらないぼやきでしかありません。それじゃあ男として完全に終わっています。
「よーし、だったらいっそのこといっちょう自分で何かやってやろう! やってだめだった時、はじめてぼやけばいい!」
 そう思って書きはじめたのがこの作品です。そもそも文学部を出ているので、人生で一回ぐらいは小説を書かなければ死んでも死にきれないという気持ちもありました。いわゆる「文学部病」というやつです。
 日中は家業の某斜陽産業に従事しているので、夜間にぼちぼちと原稿を書き続けました。その間だいたい二カ月とちょっとぐらいでしょうか? 途中、
「お前なんかが小説書けるわけないじゃないか」
「もし何かの賞に引っかかったら十万円くれてやる。あり得ないけどね。あっはっは」
 という家族のあたたかい励まし(?)もちょうだいし、ますますやる気になった私は、
「見ておれよ!」
 といきりたち、毎日必死にパソコンに向かい続けました。執筆中は自分で書いた文章で笑ったり、泣いたり、震えたり。他人から見ればどうかしているとしか思えない状態であったと思いますが、私本人はいたって大まじめで原稿にのめりこみました。
「よっしゃ、できた!」
 そんな苦闘の末に原稿が完成したのはこの新人賞の〆切も近い、七月も半ばのことでした。完成したときはこの小説で賞を取りたいとかうんぬんではなく、何よりも原稿を完成させることが出来たという達成感でいっぱいでした。
「これでいつ死んでもいいな。書きたいことも全部思いっきり書いてやったし」
 もともと破れかぶれで書いた小説です。私はそこに日頃思っていることや感じていること、うらみつらみ、妬み嫉(そね)み、情欲、哀歓、知識、おのれのすべてを注ぎ込みました。これがだめなら世の中が間違っているに違いない、と自分を変に納得させた私は、なぜか根拠のない自信すらいだいて原稿を応募しました。
「後は天のみぞ知るだ!」
 と。
 今回そんな人生で初めて書いた、自分の分身のような小説が、このような栄誉ある賞を受賞できたことはまことにありがたいことでした。それは何よりも私にとって大きな自信となりました。このような機会を与えてくださったボイルドエッグズの皆さんに心より感謝いたします。本当にありがとうございました。

 

 

 

蒲原二郎(かんばら・じろう):
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大学卒業後、海外を放浪する。帰国後、議員秘書となり、政治家を志すも挫折。現在は家業を継いでいる。『オカルトゼネコン富田林組』で第10回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。

 
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