第13回ボイルドエッグズ新人賞
受賞の言葉
園山創介

 半年前の私は小説を書くという世界にはいなかった。
 本屋のにおいが好きでよく足を運び、話題の新刊を買ったり、店内をグルッとひとまわりして珍しい本を手に取ったりしているだけの、ただの小説好きな一読者にすぎなかった。
 小さいころは、親が買ってきてくれた内田康夫の本を新刊が出るたびに読んでいた。オビに「書き下ろし」などと書いてあると、まるで新しい宝物を見つけたような気持ちになった。
「素敵な文章です」
 小学生のとき、返却されたテストに書かれていた先生の言葉だ。
「文学小説のような文章ですね」
 中学生のとき、国語の授業で出した作文に書かれていた先生の言葉だ。
 大学を卒業するまでに提出した文章は数多くあるが、ほめられたのはこの二回しかない。たったこれだけのことなのに、なぜか心の中に自信みたいなものができていた。
 国語のテストが嫌いだった。
『下線の部分の文章で主人公の気持ちを表しているのはどれですか。1〜4の中から選択せよ』
 該当の文章を読んでも、いつも全くわからなかった。主人公の気持ちが、この程度の長さの文でわかるわけがない!! といつも思っていた。
 しかし高校生のころに通っていた予備校の講義でその考えが変わった。その講義の先生はいつも厳しい顔をしていて怒鳴ることが多かった。講義は、覚えやすい暗記の方法や試験の傾向と対策などではなく、「概念」などの抽象的な話で、黒板に絵を描いて解説していたこともあり、受験対策というにはほど遠い内容だった。そのためかその講義は人気がなく、受講している生徒は五人程度しかいなかった。しかし、私はその講義のおかげで国語のテストの成績が向上し、「主人公の気持ち」もわかるようになっていった。ただ、国語のテストが嫌いじゃなくなった程度であって、小説を自分で書きたいと思うことはなかった。
 
 今年は東日本大震災がありTVでは毎日悲しいニュースが流れていた。私は無力で、被災者が早く元気になりますようにと願うことしかできなかった。
 ある日、私は本を読み終わったあとにふと思うことがあった。
 小説には人を感動させる力がある。
 ひょっとしたら自分が小説を書いて、物語を通して、みんなに何かを伝えることができるのではないか、そう思った。どこかにいる誰かを少しでも楽しませたい、感動させたい、そう思って小説を書きはじめた。心の中に湧き上がる気持ちを物語に注ぎこんだ。
 初めての執筆だった。数百枚の原稿に向かっていく中で、わからないことばかりだったが不安はなかった。以前、先生にほめられてできた、ほんの少しの自信があったからだ。
 六月に執筆を開始した私は、仕事をしながらの執筆だったので平日は睡眠時間四時間程度だったが、休日は一日十二時間から二十時間書き続けた。そして、想いを届けたいと書いた原稿が完成した。
 第13回ボイルドエッグズ新人賞を受賞することができ、大変光栄です。

著者プロフィール

園山創介(そのやま・そうすけ)
1975年、埼玉県生まれ。拓殖大学を卒業後、金融機関に勤務。初の小説『サザエ計画』が、見事第13回ボイルドエッグズ新人賞に輝いた。

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