どうしようもない男が、とことん痛い目に遭う物語。
そのような小説を書こうと思ったところから、『バージン・ロードをまっしぐら』は出発しました。
実は私自身が、そのような小説を読みたいとずっと思っていました。長年フリーターで、定職なし、貯金なし、希望なし。そんな、ないない尽くしの人生を送ってきましたから、自分より惨めな人生を見て、下には下がいると感じたかったのです。
惨めな男の人生なら、自分がよく知っているじゃないか。そのような惨めな自負心もあり、この小説を書き始めました。
執筆は思いのほか楽しい作業でした。ときにはにんまりしながら、またときには声を上げて笑いながら、書き進めました。それまではシリアスな小説しか書いたことがなかったので、ジャンルが変わると、こうも書いているときの気分が違うものかと、新鮮でした。
私の惨めな体験が活きたせいか、次々とプロットが浮かび、気づくと完成していました。手前味噌ではありますが、いままで書いてきた中で一番面白い小説になった気がしました。このときほど、惨めな自分の人生に感謝したことはありません。
この作品でだめだったら、作家になることをきっぱりとあきらめられる。そのような気持ちとともに、第15回ボイルドエッグズ新人賞に応募しました。今回落選したら、小説を書くことを完全にやめ、遅蒔きながら就職活動をするつもりでした。
「ウソでしょ?」
受賞の連絡を受けたあとは、そうつぶやき、しばらく放心状態でした。自信があったとはいえ、心のどこかでは、いや、心全体で、まさか受賞なんてできるわけがないと思っていましたから。
どうしようもない男が書いた、どうしようもない主人公の小説が、栄えある賞をいただけるのですから、人生、あきらめないことが肝心だと、心から実感いたしました。
「絶対に、絶対に、絶対に、あきらめてはいけない」
ウィンストン・チャーチルが言った言葉の正しさを、これほどまでに痛感した瞬間はありません。ほかにも多くの偉人たちが、同じような言葉をこれでもかと残してきたことも、いまなら合点がいきます。
小説を書くという大好きな作業を、これからも続けられることになり、喜びとともに、身が引き締まる思いでもあります。
今回の賞を糧に、まともな人間への道を目指すとともに、研鑽を重ね、少しでも多くのかたに知っていただけるような作家への道も目指して参ります。
堕落道なんかではなく、作家道をまっしぐらに進んでいけたら、本望です。