第20回ボイルドエッグズ新人賞
2017年2月1日

受賞の言葉
黒瀬 陽


「〇〇新人賞に受かりますように!」と、墓や仏壇にお願いしはじめたのは、十年以上前からであろうか。この「〇〇」の部分は次々と変わり、「ついでにA川賞にもノミネートされますように」と図に乗ってみたり、「この前はよくも落としましたね」と逆恨みしたり、一転、「すみませんでした。私が悪かったです。前言は撤回いたします」と深夜に土下座したりと、二十代の日々は慌ただしく過ぎていった。そしていつしか仏壇の前を素通りするようになり、ご先祖様に手を合わせることもなくなった。
 祖母が亡くなったのは昨年のことである。九十二歳の大往生だったが、久しぶりに近しいひとを失ってけっこう身に応えた。そして私はふたたび仏壇に毎日手を合わせるようになった。だが、いつもお願いごとは「家族が健康で長生きしますように……」。すっかり毒気は抜けて、私はずいぶん謙虚になっていた。
 すると年末、見知らぬ番号から電話があった。恐るおそる出てみると、「そなたにボイルドエッグズ新人賞を授けよう。これからも精進を重ねなさい」(大意)。弥勒菩薩の声だった。また年が明けて、祖母の一周忌の前日のこと。改稿の打ち合わせのため、西国の僻地に不動明王が現れた。「作家なめんなゴルァ!」(大意)。今度は未熟者の私を叱咤激励してくださった。村上様をはじめとする神仏、両親とご先祖様に感謝いたします。仏様は謙虚な者に手を差しのべる(ようである)。


著者プロフィール

黒瀬 陽(くろせ・よう)
 1982年、広島県生まれ。34歳。早稲田大学人間科学部卒業。東京大学大学院修士課程修了後、会社員。日商簿記2級。電子会計実務検定2級。法人税法能力検定1級。運転免許なし。現在、新たな資格の取得に勤しみつつ、執筆に精進する日々。応募作『クルンテープマハナコーン(ry』で第20回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。


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