第21回ボイルドエッグズ新人賞
2018年2月1日

受賞の言葉
坪田侑也


 僕にとって小説を書くことは、海水浴や花火大会なんかと同列の夏の風物詩だった。蝉の声を窓ガラス越しに聴きながら、図書館のクーラーの下でキーボードを叩く。たまに手を止めては、翌日の部活動を思い出し憂鬱になる。昨年の八月もそうやって過ぎていった。
「小説家になりたいな」というぼんやりとした願望は小学生の頃からあったが、本格的に書き始めたのは中学一年生になってからになる。僕の通う中学校には、毎年夏休みに、自らテーマを決めて取り組み、休み明けに展示するという、自由研究的な課題があるのだが、僕はそこで迷わず小説を書くことを選んだ。一年、二年、三年と、毎夏、一作ずつ物語を作り上げたのだった。
 その展示会では小説を手にとる人など稀だったため、僕はただ自分の好きなように書いていた。こだわるところは徹底的にこだわったが、面倒なところはいとも簡単に妥協してしまう。自己満足できればいいと思っていた。自分なりにいい作品を仕上げたいという気概はあったが、いかんせん読者の少ない作家は楽な方に甘えてしまう。
「面白いと思うよ。どこかに応募しなよ」
 数少ない読者であるクラスメイトの一人は、そんな僕に声をかけてくれる。満面の笑みで「ありがとう」と言いながらも、へそ曲がりの僕は、
「どうせ口ではこう言ってても最後まで読んでないんだろ」
 という素直でない見方をしてしまっていた。
 しかし、結局その友人が幸を運ぶことになる。中三の夏に書いた小説を読んだ彼が「ボイルドエッグズ新人賞に出したらどう?」と言うのだ。どうやら彼のお母様の提言だそうだったが、聞いたこともない新人賞の名前に唸ってしまう。それでも彼に背中を押され、いや半ば流されるようにして11月の晦日に原稿を送った。
 それからというもの、まさかという淡い期待を抱く自分と冷静に客観視する自分の二つの感情を持てあましつつ、二度と戻らない平凡な学校生活を送っていた。このまま中学生活も終わりかと思ったとき、そのまさかの吉報が届く。
 僕はその旨を思春期特有の素っ気なさで家族とその例の友人に伝えたが、内心は喜びで胸の中がぐちゃぐちゃになっていた。
 とはいえ、今はまだスタートラインに立てたばかりである。改稿の打ち合わせでは、たくさんのご指摘をいただいた。もう一度作品と向き合う必要がある。今度は自己満足ではないのだ。僕の文章修業はまだ始まったばかりなのである。
 このたびはボイルドエッグズ新人賞を受賞させていただき、まことにありがとうございました。


著者プロフィール

坪田侑也(つぼた・ゆうや):
2002年、東京生まれ。15歳。私立中学校在学中。部活動はバレーボール。『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。



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