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マンスリー・エッセイ ■7月20日火曜日 |
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#5 アップル、ヒューマンインターフェース
期待を胸に、ニューヨークへ 今、この原稿はMACWORLD EXPO NEW YORKの取材に向かう機中で書いている。 ここ数年のアップルの歴史でも、今回のEXPOほど期待感が高まったイベントはなかったかも知れない。アップル20周年とジョブズの復活を祝った'97年1月のMACWORLD EXPOも、注目度や盛り上がりはすごかったが、その一方で不安も強かった。それ以後、ジョブズが登場した基調講演はすべて異常なほどの注目度と期待を集めている〔註1〕。 多くは講演が終わるまで、いったい何が発表されるのかわからないというわくわくする期待感だ。一つの基調講演で爆弾発表が行われると、次の基調講演の期待がさらに高まる。以来、ネットワークコンピューター〔註2〕、1000ドルパソコンなどMac型PDAなどの噂にも助けられて、ジョブズが行う基調講演はコンピューター業界でももっとも注目すべきイベントとなった。 ただし、それでも最初の1年は、本当に重大な発表が行われたのは2回に1回程度だった。期待が異常に高騰していた基調講演に限って、直前の基調講演の内容を繰り返すだけのことが多かった(最後に肩すかしをくらったのは'99年2月のMACWORLD EXPO/TOKYOだろうか?)。 さて、米時間21日から始まる今回のMACWORLD EXPOへの期待感はこれまでとはちょっと違う。これまでのような何が発表されるかわからないというわくわく感ではなく、むしろ誰もが待望のコンシューマーノート型機を目にしたいという期待感だ。そして、今回のEXPOが肩すかしで終わる可能性はきわめて少ない。来場者は世紀の瞬間を自らの脳裏に刻み、願わくばその場で新型機を購入しようと盛り上がっている。 コンシューマーノート機は、Macを4製品ライン構成にするというスティーブ・ジョブズの製品戦略のmissing piece(最後の1片)であり、これが登場すればジョブズの戦略がより明確にわかるという期待感もあるのだろう。ちなみにこのEXPOでは他にもいくつか重大な戦略や製品が発表されると期待されている(詳しくはこちらを参照してほしい)。
コード名「ファンファーレ」 肩すかしといえば、アップル社が満を持してMac OS 8.5に搭載したアピアランス機能にも肩すかしを食らった。これはMac OSのウィンドウやメニューバー、デスクトップ、アイコンといった外観(これらをセットにしてテーマという)を変更するための機能で、もともとCoplandプロジェクトの下で「Fanfare」というコード名で開発が始まった。 楽しい背景画像(Coplandのデモでは背景でボールがはね回るアニメーションが表示されていた)やピョコピョコというかわいらしい操作音、ボタン操作を基本にしたアイコン表示など子供でも簡単に使える操作環境のGizmo(当時はTheme Zなどとも呼ばれていた)に切り替えたり、メニューオプションが豊富なパワーユーザー向けの未来風デスクトップ(HiTech)などはMac専門誌でもさんざん紹介され、Windows 95でも同様の機能が採用された。 テーマの中にはウィンドウの外観を著しく変えるものもあったが、アップル社のヒューマンインターフェースデザインを担当するチームは、メニューバーは必ず画面の一番上に表示する、またウィンドウの上にはタイトルバー(ウィンドウの名前を表示する場所)があり、その左にはクローズボックス(ウィンドウを閉じるためのもの)、右にはズームボックス(ウィンドウの大きさを変える)とシェードボックス(ウィンドウをタイトルバーだけの表示にする)を用意するといった基本的なガイドラインを守ればユーザーはまったく異なる外観でも直感的な操作を行うことができると主張した。 その後、この機能に感化された学生がAaronというSystem 7の外観をCopland風に変えるシェアウェアを出すと、これは世界的ヒットとなり、同ソフトはさらに他の作者のシェアウェアと融合してCoplandのようにユーザーが自由に外観を変更できるKaleidoscopeへと進化した。 Kaleidoscopeは有志がつくったホームページが世界中につくられるほどのヒットとなり、日本では専門誌での連載まで行われた。 アップル社のアピアランス機能はCoplandプロジェクトの座礁とともに消え去ったと思われていたが、'98年の5月に劇的な復活を果たす。この月行われた毎年恒例の開発者会議で、Mac OS 8.5にアピアランス機能が採用されることが発表されたのだ。 また開発者会議ではすでにCopland時代に紹介されていたGizmoとHiTechに加えて、まったく新しいDrawing Boardというテーマも紹介され、Kaleidoscope用の外観ファイル(Schemeという)を簡単にアピアランス機能用のテーマに変換できることも紹介された。 Drawing Boardは鉛筆のラフスケッチのような見た目を持つメニューやウィンドウを提供するテーマで、日本のアップル社が開発したものだった。日本のアップルのエンジニアたちは平面を使って立体感を出すことを目標にこのテーマをデザインしたという。 Drawing Boardは、ジョブズが世界中のアップル社員に呼びかけたコンペで最終予選まで生き残った折り紙付きのテーマで、「Gizmo」、「HiTech」、そして「プラチナ」(Mac OS 8と同じ外観)と並んでMac OS 8.5に同梱されるはずだったが、最終的な製品に採用されていたのは、「プラチナ」だけだった。 その後、アップルはいくつかの開発者向けイベントで「テーマの採用はユーザーを混乱させる」など、それまでとは正反対の主張を行った。 現在出荷しているMac OSにはテーマ切り替え機能は一応実装されており、切り替え用のポップアップメニューもまで用意されているが、テーマが「プラチナ」ただ1種類しか付属していないので、実質的に切り替えができない〔註3〕。今後、アップルは混乱をなくすため、このポップアップメニューも消し去ってしまうのだろうか……。
驚かされた最新デザイン ところで、アップル社のユーザーインターフェースで最近いちばん驚かされたのが、QuickTime 4.0付属の再生ソフト、「QuickTime Player」の外観デザインだ。アップル社製DVD再生ソフトに相通じる近未来調のデザインを採用したソフトで、これまでのシンプルなムービー再生ソフトとはあきらかに様相が異なっている。 QuickTime開発チームのある主要開発メンバーの1人(日本の専門誌によく登場する長髪の人物ではない。念のため)に聞いたところ、同ソフトのあのデザインに関してはスティーブ・ジョブズの側から積極的にクビをつっこんできたということだ。 近未来的イメージをかもしだすシルバーのフレームは、下手なQuickTimeムービーより存在感があるもので、わかりやすさを最優先させるために極限まで簡素化した従来のデザインとは根本的に発想が異なっていた(ジョブズは「コンピューターは頭の電源をONにして使うもの、テレビは頭の電源をOFFにして見るもの」とパソコンとTVの融合を否定したが、新QuickTimeのインターフェースはあきらかにテレビ的なものだった)。 ヒューマンインターフェースの研究者たちはこぞってQuickTime 4.0のインターフェースを酷評した。先陣を切ったのは普段はWindowsのデザインの不出来を指摘しているIsys Information Architect社で、これにアップル社ヒューマンインターフェースグループの創設者、ブルース・トグナツィが続いた。とくにIsysはQuickTime Playerのインターフェース構成要素を一つ一つ取り上げて、どこが悪いかを解説している。 ヒューマンインターフェースの父と呼ばれる元アップル社ATG部門副社長、ドン・ノーマン氏も、おそらく意見を求められればこれに加わるだろう。 ヒューマンインターフェースグループこそがアップルの最大の資産(ちなみに同グループは現在解散し、メンバーはアップル社の各開発プロジェクトに組み込まれている。つまり、ヒューマンインターフェースデザインに関しては開発チームごとに自主的に規制する方針になったようだ)と考えていた筆者も、QuickTime 4.0を初めて目にしたときはほぼ同意見だった。しかし、最近では少し考えが変わってきた。 残念ながら(本当はようやく筆者ものってきたところなのだが)、ここまで書いたところで時間切れとなった。まことに申し訳ないが、続きは約半月後に書かせてもらう。 ■ |
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1999 by Nobuyuki Hayashi, Boiled Eggs
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