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爆裂対談2(後編)

 
「きょうのお料理」連載100回記念!
新人作家(?)爆裂対談2
三浦しをん × 加藤 文
前編:別れた人
 
 

――「きょうのお料理」がめでたく100回を迎えました。99年10月の開始以来、ちょうど丸4年です。「しをんのしおり」100回のときに三浦しをん、加藤文の対談がありました。あれから早くも3年が経ちましたが、今回は加藤さんの私生活に「離婚」という大きな出来事が起こりました。まずは、そのへんのいきさつから始めていただきましょうか。加藤さん、11月に入って状況の変化はどうですか。

 ●彼女は読まない

加藤 もうとっくに一人ですよ。洗濯機も全自動の乾燥機付きってのに入れ替えたり、料理も当然一人で作るし、完全にモードチェンジしたわけですけど、一人でメシを食ってるというのは無性にわびしいものでして……。特に、中華風混ぜご飯みたいな凝った料理なんか作ったりしたら、ますますいかんなーという状況です。
三浦 わはははは。
――美味しそうじゃないですか(笑)。
三浦 招いていただいたなら、いつでも行くのに(笑)。
加藤 ほんとですか? だってね、一合じゃ作れないから2合くらい炊いたりするでしょう。冷えたあとラップに包んで冷凍なんかしてる自分……やだなあ。
――(一人になったという)自覚が足りないんじゃないですか?
加藤 ぼくはどうしたらいいのか。
三浦 家でも美味しいもの食べたいですものね。
加藤 三浦さんも、こういうわびしい体験は聞いといた方がいいですよ。分かち合いましょう、このわびしさを(笑)。小説の取材ということで。
三浦 あ、はい。
――離婚前はどうしてたんですか。
加藤 聞いてくださいよ。夫婦生活が崩壊しかけているという自覚があったときには、彼女の作ったメシを一緒に食べるのが唯一の互いの接点になるだろうということがあったんですよ。よく聞いといた方がいいですよ。
三浦 聞いてますよ(笑)。
加藤 それがあったから、ぼくは家でよくご飯を食べました。
――平日も?
加藤 平日も、なるべく。食べられないときは家に電話を入れて。
三浦 まあ!
加藤 無駄な波風は立てないように(笑)。それでなくとも仲が悪いんだから。
三浦 あいたたた(笑)。
加藤 その努力があったにもかかわらず、いまは常に一人ですからね。その落差はなかなかに……。
――同じ家にいれば、同じ生活のリズムがありますからねえ。
加藤 夫婦生活のあいだにどっちが持ち込んだかわからない文化が渾然一体となってあるんです。掃除機のかけ方ひとつとっても。自分ではもう戻れなくなっているというところは、なかなか感慨深いですね。リアルですねえ。
三浦 怖いよー(笑)。
――ぼくにはよくわからないんですが(笑)。
三浦 と、わからないふりをしている(笑)。
――修羅場というのはあったんですか。
加藤 ありませんよ。100回目に書いたとおりです。お互いにいつ切り出そうかという感じできてましたから。ぼくは、かみさんがいつ死ぬだろう、かみさんが死んだらぼくはどうなるんだろうというような仮定の話を、1カ月に1・5回くらい考えたりしてました。
三浦 多いんだか少ないんだかわかんないけど(笑)。修羅場もないんだとしたら、そこに至るまでに話し合いをしようとかいうことはなかったんですか。
加藤 話を戻すとですね。ぼくが最初に小説を出したときに、妻がどう反応したか。ふつうは、「ああよかったわね」とか、お世辞でも言うでしょ。
三浦 お世辞でなく、そりゃ言いますよ。
加藤 どうしたかというと、「あ、そう」と言って、食卓に本を置いて、終わり。
三浦 意表を突く反応ですね。
加藤 それで、次に『やきそば三国志』を渡したところ、彼女は読まない。まったく同じ反応なので、『花開富貴』は彼女のお母さんに渡したんです。そういうふうに、妙に会話がはずまなかったですね。
三浦 そこに至るまでに、会話がはずまなくなる理由がなにかあるんですよね。
加藤 なんなんでしょうね。気づいたらそうなっていた。
三浦 そりゃ悲しいですね。なんでそうなっちゃうんだろう。仕事が忙しかったんですか。
加藤 後半の5年間、彼女はあえて仕事を忙しくしてったんじゃないかと思うんです。妙なところで対抗してる……。
三浦 ああ。
加藤 これ、夫婦が作家同士なら、「直木賞をとって」とか(笑)。
三浦 あっちの方が売れてるとか(笑)。
加藤 ……ということがあるとして、それはいいじゃないですか。当たり前だと思う。ところが、全然違う職業で――。
三浦 加藤さんの会社の方の仕事とも全然違うんですか。
加藤 かみさんは、バイオテクノロジーとか遺伝子とかをやってる科学者です。全然関係がない。それなのに、どこかで対抗するところがあったんですね。
三浦 なるほどねえ。
加藤 『やきそば三国志』の中で、働く女性は家庭で夕飯を作るのは非常に困難な状態にある、無理して作る必要はない、買ってきたもので夕食を組み立てるということを積極的に考えてもよいのではないかということを書いたんですが、あれはかみさんへのメッセージなんです。
三浦 でも読んでもらえなかった(笑)。
加藤 そう!

  声に出して言いたい日本語

加藤 全然100回記念の話になってないですね(笑)。今日は、継続することはいかにむずかしいか(笑)という話をしようと思って来たんですが、そこになかなか到達できないなあ。
三浦 それまでに検討すべき問題がいろいろとありますからね(笑)。
――何年続いたんですか。
加藤 11年。
三浦 最後の5年は疎遠だったという。
加藤 そうです。小説を書き始めてからはボロボロですよ。
三浦 なにがいけなかったんでしょうね。それがいけなかったのかな(笑)。
加藤 ぼくをいじめないで(笑)。
三浦 小説を書くと、自分の中に閉じこもらなければいけない部分があるから。それに慣れなかったのかもしれない。
加藤 彼女には小説家と結婚したという意識はなくて、サラリーマンと結婚したという。
三浦 そうそう。最初から加藤さんが小説家だったら、あきらめもつく。
加藤 歯車がかみあわない――それがあったんだろうと思います。
三浦 そういうのはたしかに、話し合ってなんとかなるのは一部でしょうからねえ。
加藤 話し合ってどうにかなるという状況ではないと思いますよ。
三浦 「風呂の入り方が気に食わない」程度だったら、言ってきかせられますけどねえ(笑)。
加藤 数カ月前にも、枕カバーを変えたりしているんですよ。
三浦 枕カバーを変える?
加藤 枕カバーを変えるってことは、まだ別れるつもりはなかったということですよ。たぶんある日、突発的に「もういいや」と思った瞬間があったんだろうなという気がします。
――1年半くらい前に、「昨日妻が実家に帰ってしまった」という話をエッセイに書いてますよね。あの原因はなんだったんですか。
加藤 もはやはっきり覚えてないなあ。うちは淡々としていて、茶碗が飛んできたりという夫婦喧嘩はなかったんです。
三浦 最初っからそうなんですか?
加藤 いや違う。小説を書き出したころからですね。淡々としてきたのは。
三浦 やっぱり小説がいけなかったんじゃないんですか。
加藤 その前から……。
三浦 ぎくしゃくはしてたんですか。そりゃそうですよね、原因が一個だけなんてことはありえないですものね。
加藤 小説の責任にしてはいけないとぼくは思ってるんです。
――「離婚」は悪いんですかね。ぼくはメールで聞いたときに、よかったなあと思いましたよ。
加藤 「おめでとうございます」というメールが返ってきた(笑)。
――しこりのようなものを胸に抱えながら同じ屋根の下で暮らす人生よりかは、しこりをなくして、すっきりさっぱり暮らした方が、よっぽどお互いに幸せですよ。
三浦 そりゃそうですね。
――そういうことを決めるのは大変なことなので、ふつうはやり過ごそうとしてしまうんですが、そうしないできちんとしたことは、こりゃめでたいではないですか。だから、おめでとうございます、と。
加藤 声に出して言いたい日本語(笑)。
三浦 ははは。
――心の底からそう思いますね。奥さんにも言いたい。
加藤 ぼくよりも彼女にだと思うな。これ言うと、三浦さんは男と女で違わないよと言うかもしれないけど、同じ40でも女の40の方にハンディがあるような気がする。
三浦 そりゃそうでしょう。
加藤 だとしたら、5年後に別れるのといま別れたのでは、今の方が断然いいと思うんです。
――同い年でしたっけ?
加藤 半年違いで、学年は一つ下。ときどき同じ年になるんです。
 
 ●きれいな同性と不細工な異性

加藤 話は変わりますが、別れた後、ぐでんぐでんに酔っぱらって、友達に連れられて、ヒ○キ君というオカマのいるショットバーに行ったんです。気がつくと、パンツ脱がされて、ヒ○キ君と抱き合っていた。口づけしていたっていうんだなあ。
三浦 いいじゃないですか!(笑) ヒ○キ君はオカマっていうことは、心は女なんでしょう。
加藤 違うんです。今日はその話をしようと思ってきたんですが(笑)、知りたいでしょう?
三浦 うん、知りたい。
加藤 あのね、オカマの人の心は、基本的に男なんです。言葉遣いもオネエ言葉なんですが、基本は男ですよ。
三浦 じゃあ、相手にする人は女の人なんですか? でも、加藤さんと抱き合ってたんでしょ?(笑)。
加藤 いろんな人がいるとは思うけど、精神のベースにあるのは男なんです。その上に、発想とか表情とかの部分に――要するに表側に女という皮をかぶっているだけなんです。だから、恋愛は男同士の友情に近いものになるんですよ。
三浦 なるほどね。
加藤 別れたあと、いちばん話が合ったのは、ヒ○キ君だな(笑)。
三浦 はっはっはっは。
加藤 オカマさんはやはり男ですよ。だから、ぼくはやなんだ。男の体でも中身が女性だったらいいですよ。いいですよっていうと誤解を生むけど(笑)。
三浦 だって、パンツ脱いで抱き合ってたんでしょ(笑)。すでに一線を越えてるじゃないですか!(笑) 中身が男でも女でも、もう全然OKなんですよ!
加藤 ダメですよ! しらふじゃなかったんだから! 抵抗はしてたらしい。誰も助けてくれない。
三浦 かわいそう(笑)。ふんだりけったり。でも、そりゃ助けませんよ(笑)。もっとやれー、てなもんですよね。そういえば、私の中での最近のテーマは、「きれいな同性と不細工な異性だったら、どっちと付き合いたいか」という二者択一なんですが、加藤さんはどっちがいいですか?
加藤 うーん、ぼくの場合、それは二者択一にはならないなあ。どっちもいい。「不細工な女性」って言いますが、なにかのきっかけで好きになったら全然関係ないんだなあ。
三浦 ああ……。私も、この世の中で不細工な人っているのかなと思う派なんですけど(笑)。ただ、生理的嫌悪感をもよおす顔ってありますよね。まったく好みじゃない顔って。
加藤 それはある。
三浦 そういう異性と、きれいな同性とでは。
加藤 きれいな男性。
三浦 そうですよねえ! 私も断然そうなんですよ! でもこれが、同性選ぶくらいなら死んでも不細工な異性の方がいいっていう人がいるんですよ。
加藤 ぼくはやっぱり同性だなあ。三浦さん、レズなんですか。
三浦 ……私は……わりとそういうところも……なきにしもあらず、ですかね。
加藤 というか、好きな相手だったら、もう男も女もあまり関係ないという。これ、注釈付けておかないと、まずいなあ。
三浦 「と断言していいのかどうか、モゴモゴ……」という*(米印)が必要ですね(笑)。
加藤 このごろ、なんでも決めつける人が多いから。加藤さん、ロリコンでしょ? とかなんとか、ひどいものですよ。
三浦 困りますよね。でも、頭の中でいくらシミュレーションしたってねえ。
加藤 見物人もおらず、マンションにふたりっきりで行っていたら、ヒ○キ君とそうなってたかもしれないしね。そうなっていたら、「ああそうか。そういうこともあるんだな」と思うと思う。そのときには。
三浦 (笑)そうでしょうね。
加藤 生理的に嫌悪する女性でも、一線を越えたあとに、もしかしたら可愛い側面が見えちゃったりすることが、あるんですよ。なんなんだろうな、これ。不思議なんだけど(笑)。
――いっときの気の迷い、でしょう。
加藤 そうそう。それがすべての過ちの始まりなんですけど(笑)、そうなったらそうなったで、ああそうなのかと思ってしまう。
三浦 それはちょっと、流されがちすぎるんじゃないですかねえ。
加藤 男はそんなものですよ。
三浦 そうなんだ……。
加藤 だって、生殖にしても生命の維持にしても、女性が中心ですよ。
三浦 うーん、どっちが中心かの問題ではなく、とにかく、生理的嫌悪感のある人とそんなことするなんて不可能なはずですよ!
加藤 いやあ……たぶん、不可能ですね。
三浦 不可能でしょう(笑)。無理ですよ。
加藤 でも……最近、すごくストライクゾーンが広くなってる。
三浦 わははは(手を叩いて喜ぶ)。そりゃまあ、次第に心が広くなるってことはありますよね。それは、価値には幅があるってことがわかるからでしょう。離婚して、幅が広くなったんですねえ……。

 

(2003.11.01/神田・花ぶさにて収録)■

 
かち合いましょう、このわびしさを(笑)。
 
中身が男でも女でも、もう全然OKなんですよ!
 
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