新人作家の新・食エッセイ
12月
5日月曜日
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 #46 それぞれのクリスマス

 

 夕刻、ちょっとした買い物に、自転車で出掛けた。
 ショッピングモールはクリスマスの支度を準備万端整え終えていた。モミの木にオーナメントを飾り、並木をツリーに見立てて電球をからめ、商店の窓には白い雪のようなスプレーでサンタクロースや星が描かれていた。飾り付けと無縁なのは銀行のATMくらいのもの。クリスマスとは縁がなさそうなラーメン屋でさえ、飾りを出していた。
 ショッピングモールだけではない。道筋にあるクルマのディーラーも、ファストフード店も、床屋も、クリスマスの飾り付けがない店はないといっていい。
 あたりがだいぶ暗くなった。用事を終え、帰りを急いだ。
 そのうち気付いたのだが、商店は別にして、去年まであちこちの家がやっていた、派手派手しいクリスマス飾りが廃れてきた。
 わたしが勝手に

ナイヤガラ屋敷

と呼んでいた、屋根のてっぺんから幾本もの電線を庭へ滝のように張って、ぴかぴかやっていた家が、今年はいつまで経っても飾り付けをしない。同じく人形屋敷と呼んでいた、ディズニーの小人や白雪姫の人形に電球を仕込んでならべていた家も、生け垣が黒々と夕闇にとけ込み静かなものだ。
 いっときは、「電飾のカリスマ主婦」なんてひとが紹介され、ああすればいい、こうすればいいとテレビで飾り付けを指導していたが、こういう玄人まがいのデコレーションが流行らなくなったのかもしれない。それとも、それぞれの家で飾り付けを喜んでいた子供が成長して、もうどうでもよくなってしまったのか。
 いずれにしろ、数年ぶりに町に暗い冬の夜が戻ってきた。
 これで、いい。と思った。
 クリスマスだからといって、誰もがこころ浮かれているわけではないし。
 離婚してひとり者だった去年は、あるお菓子会社の広告をつくっていた関係で、大きなクリスマスケーキをふたつ買わされ、食べるあてがなく困り果てた。
 ひとつは同僚に引き取ってもらった。もうひとつを、どうしたか。それがはっきり思い出せない。真夜中に残業を終え、行きつけのバーに持って行ったような気がする。徹夜仕事の誰かにあげたような気もする。
 お菓子会社の仕事で深夜まで仕事をしていながら、ケーキの行き先を覚えていないくらいだから、クリスマスはどうでもよかったのだ。
 ただそれでも、仕事場を出たとき真夜中のオフィス街がやけに静かで、いつになくほっとした気分を味わったことが、いまだに忘れられない。
 思い返してみれば、イブの夜にバカ騒ぎをし、浮かれるひとを、この何年も見掛けない。
 通勤電車の中の風景はほかの日とあまり変わらない。
 駅前ではクリスマスケーキが売れ残り、女の子が声を枯らして、なんとか売り尽くそうとがんばっているが、これは季節の風物詩みたいなものだ。
 ケーキの四角い箱や、フライドチキンのバケツみたいな入れ物を抱えているひとはいるけれど、黙々とそれぞれの家へ向かっていく。
 仕事のことで頭がいっぱいで、クリスマスどころではないひとも多いはずだ。あるいは、なにがしかの苦さをうちに秘めて、クリスマスの夜を迎えるひともすくなくないだろう。
 見せ物のようなクリスマスの演出は、ショッピングセンターなどに任せておけばいい。一年の最終コーナーを曲がる思いは、ひとそれぞれ。北風と、街灯と、家の窓の明かり。これだけで十分冬は冬らしく、一年の終わりに向かう雰囲気が醸し出される。
 と、すっかり暮れた道を、自転車で走りながら考えた。
 さてそろそろ我が家だなとペダルをこぐ脚に力を込めたときだった。
 一軒の家がまぶしく輝いていた。
 古い建て売りの家だった。クレヨンをぶちまけたように色とりどりの電飾を生け垣に絡め、ものすごい早さで点滅させている。
 呆気にとられ自転車を止めて眺めると、生け垣ばかりか、窓という窓に大きな光るオーナメントが仕込んであった。光ればいいということなのか、トロピカルな椰子の木と花などオーナメントとはいえそうもないものまである。
 電飾の流行が遅れて訪れたにしては、まるで洗練されていない。クリスマス飾りの機会を借りて、はやくも忘年会気分なのかもしれない。
 いろいろなクリスマスがあるものだな、と思った。
 翌朝、寝ぼけ眼で庭に出てみると、ひだまりに一輪の白ユリが咲いていた。
 わたしが植えたものではない。しかもユリは夏の花のはずだ。鳥か風が種を運んで来たもので、なにかの具合でいまごろ花を咲かせたようだ。
 青いツボミをつけたユリがまだ幾株かあった。
 この朝咲いた花はクリスマスまでもたないだろう。ツボミたちも、冬の寒さに花びらを開けぬまま終わるかもしれない。
 でも、

冬に咲いた白ユリ

が、我が家にとってもっとも似合いのクリスマスプレゼントに思えた。
 わたしと、ことし家にやって来た妻の、2005年が咲いているのだと思った。
 わたしは、妻を呼んでユリを眺めた。

 
 
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