新人作家の新・食エッセイ
2月
20日月曜日
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 #51 知ったかぶり

 

 最近の天気予報は、よく当たる。
 数日前から雪になると予報が出ていた。それが当日になると、雪の降り出す時刻や量までわかった。
〈午後六時から未明まで、多少積もる雪〉
 乾いた空気でのどをやられていたので、

すこしくらいの雪なら大歓迎

だった。
 しかし、午後六時に雪は降らなかった。夜更けになっても、降り出す気配がない。今回ばかりは天気予報がはずれたかと思い、眠りについた。
 朝になり目ざめると、家々の屋根が白かった。
 予報通り雪はさほど積もらなかった。雪は屋根の所々で解けかかっている。
 雪の降り出す時刻ははずれたが、やはり天気予報は正しかったのだ。自分が予報を出したわけでもないのに、「思った通りになった」と気分がよかった。
 ぽつりぽつりと音がした。
 雪が小雨に変わったと思い、寝ぼけ眼のまま新聞を取りにおもてに出た。
 雨は降っていなかった。
 雨音に聞こえたのは、屋根の雪が解け、滴になって落ちる音みたいだった。
 屋根を見上げた。
 雨樋が一カ所だけ傾いていて、そこに溜まった雪解け水が庭に落ちていた。
 まさか雨樋が傾いているとは、思ってもみなかった。
 お隣はと見ると、さすが新築だけあって、雨樋は雪解け水をしっかり受け止め、水漏れしていない。
 我が家は階段のような段々になった区画にあるので、一段低いお隣の屋根が間近に見える。
 雨樋そのもののつくりが違うみたいだった。
 屋根の端に、ぴたりと寄り添うように雨樋がついている。
 雨樋を支える金具は、とても頑丈そうだ。
 だから屋根と一体となって、水漏れしないのかもしれない。
 ここ十数年で雨樋が進化したのだろうか。
 意外な感じがした。
 なにせ雨樋である。雨水が屋根から滴り落ちないように、集めて流すだけの仕組みだ。進化のしようがないように思われる。
 そもそも雨樋のことなんて、じっと見るのも、考えるのも、この日がはじめてだった。
 こんな目立たないものを、メーカーが日々コツコツ改良しているとしたら驚きだ。
 だが、あり得ないことではない。
 十年一日に見えるクルマのバックミラーさえ、超音波で振動させて雨粒を落とすもの、親水式といって雨粒を均して見えをよくするもの、逆に撥水式にするものといろいろ進歩している。
 と、してみると雨樋ばかりか地中に埋まって見えない土管に至るまで、最新型はなにかと気の利いたものに変わっているのか。
 新築というと、きれいな壁や屋根に目を奪われるけれど、じつは目の届かないところが着実に進んでいるのかもしれない。
 ちょっと、うらやましかった。
 こうなると、我が家の雨樋のつくりが気になる。
 ベランダに出て、真上を通る雨樋をまじまじと観察した。
 陽に焼けて、色が褪せている。
 ますます、新築がうらやましい。
 では、どこがどう最新型に劣っているか、目を懲らした。
 我が家の雨樋も、一部傾いてはいるものの、屋根の端にぴたりとついていた。
 さらに、金具などの部品もお隣のものと微々たる違いしかなかった。つくったメーカか、型番が違うといったくらいのものだった。
 それではと周囲の家々を見回した。
 我が家より古い家も、お隣よりさらに新しい家も、

雨樋は雨樋であって、

進化らしい進化をみせていない。
 ぽたぽたと水漏れをしている家もある。
 我が家の雨樋が、たまたま傾いていたものだから、なんとなくお隣がよいものを付けているように見えただけだった。
 まさに、隣の芝生は青く見える、だ。
 顔洗い、歯を磨くことにした。
 歯磨きのチューブがやせ細っていた。
 チューブのお尻から頭まで何度指でこすっても、歯磨きが出てこない。出口のほうに集めに集め、頭の部分を思い切り力を込めて折り曲げて、やっと歯ブラシに歯磨きを搾り出した。
 最後の一回分だった。
 妻に、いよいよ歯磨きを買わないとならなくなったと言うと、
「あたらしいのがあるわよ」
 洗面台に数日前から用意して置いてあるという。
 たしかに新品があった。毎日、目にしていたはずなのに気付かなかった。
 狐に摘まれたみたいだった。
 天気予報で明日のことまで、わかっているつもりなっていた。
 しかし、雨樋ばかりか洗面台の上のことさえ、わかっていなかった。
 わたしの目は、文字通りの節穴だったようだ。

 
 
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