新人作家の新・食エッセイ
3月
20日月曜日
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 #53 オシロイバナ枯れた

 

 ふとしたきっかけで、卒業した県立高校の同窓会がホームページを開いていることを知った。ホームページはかなり本格的で、内容も充実していた。これには驚いた。
 わたしは母校の十八期生で、卒業するまで「新設校の生徒」と呼ばれることが多かった。だからいまだに母校が新設校のままのような気がしていたが、考えてみれば高校を出てから二十余年経っているわけで、同窓会が立派なホームページくらい持っていても、驚くことはないのかもしれない。
 ホームページから張られたリンクを辿っていくと、電気グルーブのピエール瀧が同窓生として紹介されていた。三期後輩だった。ピエール瀧が同郷なのは知っていたけれど、まさか後輩とは思いもよらなかった。
 さらにリンクを行きつ戻りつすると、

校門の前にあったパン屋

がいまも変わらず商売をしているのもわかった。
 このパン屋は、エルベという。
 エルベが賑わうのは放課後だった。
 だが、エルベで思い出すのは昼飯時のエスケープだ。
 放課後になるまで校門を出てはならない。昼飯の時刻にエルベで買い食いするのは当然禁止だった。
 午前中最後の授業が終わると、ワルぶった同級生が寄り集まり相談をはじめる。
「飯、どうする」
「購買のパンも、食堂も飽きたな」
「エルベにするか」
 といった具合だ。
 購買のパンとエルベのパンは似たり寄ったりだ。
 食堂も味の好みは別にして、日替わりでメニューが変わったから、むしろパンのほうがマンネリではなかったか。
 ワルぶった同級生だけでなく、いたって平凡な高校生だったわたしも友だちとエルベに行くことがあった。
 なぜ、エルベに行ったのか。
 エルベそのものより、危険を冒して校門を出るスリルが重要だったのだ。
 こんな調子だから、無事エルベにたどり着いても落ち着かなかった。今度はどうやって校内に戻るか。戻ってからは、エルベで買ったパンの包みを、いかに見つからないように捨てるかを考えた。
 馬鹿なことをしていたものだ。校門からエルベまで道を挟んでたかだか十メートル。こんなエスケープのスリルを楽しんでいたとは、高校生とはいえ幼かったのである。
 幼かったといえば、生徒会役員の恋愛スキャンダルなんてものもあった。生徒会役員の男女が、密室でナニカをしていたというのである。ナニカとは文字通りナニカで、何をしていたか誰も知らなかった。
 ふたりきりだった、というだけの噂が全校を駆けめぐったのだ。そして噂のナニカの部分に、わたしたちはハラハラしながらあれこれ代入し想像したのである。
 わたしの家のそばにも県立高校がある。進学校だ。
 いまも昔も、放課後になるまで校門を出てはならないだろうに、コンビニは昼時となると高校生で賑わっている。
 昼時に限らず、授業時間か休み時間かわからないが、中途半端な時刻にもちらほらと生徒の姿を見掛ける。
 しかも、コンビニで見掛ける高校生はあっけらかんとしていて、学校を抜け出してきたという感じがしない。男の子と女の子のカップルが手を繋いだりしている。
 彼らは不良とかワルではない。
 みな揃って利口そうな顔をしているし、タバコの自動販売機が店先にあっても見向きもしない。
 この高校だけが特別とは思えないから、いまどきはこれで普通なのかもしれない。
 それにしても、買い食い程度のエスケープはともかく、よく制服のまま男女が手を繋いだりできるものだ。
 校門を抜け出すスリルを楽しんで満足し、恋愛スキャンダルにハラハラしていたわたしたちとは大違いである。
 ませているというか、大人っぽいというか。
 そんなに早く大人になって大丈夫だろうかと、ちょっと心配になる。
 なぜ心配になるかというと、時期はずれに植えたオシロイバナが全滅してしまったからだ。
 オシロイバナが咲くのは夏である。
 去年の秋、並木道のアスファルトの隙間から生えていたオシロイバナの種を拾った。春になったら庭に植えるつもりだったが、温室栽培の花があるくらいだからと、鉢に種を蒔いて出窓に置いた。
 すぐに芽が出た。それから驚くほど順調に育ち、茎は男の人差し指くらいまでになった。葉も茂った。これはいいぞ、と水を絶やさず与えた。
 ところが暖かくなってきたら、成長が止まった。いや、ずんぐり太くなるばかりで、背が伸びなくなったのである。そして、葉が一枚二枚と落ち、ついにすべての株が枯れてしまった。

種の蒔き時を誤った

のである。
 人間にも、育ち時があるように思う。
 高校生を見て、こんな心配をするのは、わたしが歳を取った証拠だろうか。

 
 
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