新人作家の新・食エッセイ
4月
17日月曜日
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 #55 酸性土壌

 

 庭のハナミズキが花を開きはじめた。
 ハナミズキの花びらに見えるものは、萼が変化したものということで、この時期はまだ薄緑色をしている。ゆっくり白く変化してゆき、やがてハンカチを広げたようなかたちになる。
 出窓の鉢に種を蒔いたパセリとバジルも双葉が続々と顔を出し、芽を間引くのに忙しい。
 庭に花が咲き、草木に新芽が開くとこころが躍る。

もっと緑に囲まれたい

と思うようになる。
 そこで、苗木屋に出掛けた。
 春にはハナミズキが咲くから、秋に花が咲く木がいいかな、ということでキンモクセイを探した。ところが、この時期キンモクセイは店頭に並べないのだという。花が咲いていて香りがする秋が、キンモクセイの売りどきなのだそうだ。
 では他になにか好みのものはないか広い売り場を見て回った。
 木ではないけれど、ローズゼラニウムとレモンバームの苗を買うことにした。ローズゼラニウムはバラやシトラスのような香りが、レモンバームは名前の通りレモンのような香りがするハーブだ。
 まだまだ買いたい。
 ブルベリーの苗木があった。
 キンモクセイとは違い、早春から春が花どき。スズランのような花は香りがしないけれど、初夏に真っ青な実が成る。
 楽しそうだ。
 ブルベリーはいくつも品種があった。ハイブッシュ系とかバードアイ系と札が付いている。どれにしたらよいかわからないので、実がたくさん成るというハイブッシュ系のシャープブルーという木を選んだ。
 家に戻り、ローズゼラニウムとレモンバームは鉢に仕立て直し、出窓に置いた。
 出窓はさらに賑わい、なかなかのものになった。
 ブルベリーは庭に植えるつもりだが、これまでの経験から木は植えかたを間違えると育ちが悪いので、どうしたらよいかまず手元にある園芸の本を調べることにした。
 いろいろ注意が書いてあったが、ポイントは「酸性土壌を好む」の一点。大概の土地は中性からアルカリ性だから、工夫が必要なのだ。
 インターネットでも調べた。ブルベリーはいまブームなのか、たいへん詳しいページがあった。
 酸性土壌のつくりかたであるが、ピートモスを主体にしろとある。ピートモスは北国の苔である。苔が生えては枯れ、そのうえにまた苔が生えと繰り返され、古い地層がピートモスと呼ばれる土と枯れた苔の中間のようなものになる。もともとブルベリーはこういった場所に生えているものらしい。
 知らなかった。
 さらに、だ。ピートモスを主体にして土をつくり、水はけがよく、かつ水持ちがいい状態にしなくてはならないのだそうだ。これはとても高度なことではないか。水はけと水持ちは矛盾している。それを両立させるのだ。
 ホームページを読み進めるうちに、ブルベリーはじつにマニアックな木であることがわかった。
 苗木屋の札にいろいろな系統が書いてあったのは、それぞれに育てかたがあるからだった。しかも、同系統の違う品種を混ぜて育てないと実が成らないというではないか。そして虫媒花であるから、蜂が来ないと受粉しない。
 陽射しの当てかたも品種によって違う。買ったシャープブルーは関東以北の涼しい気候向きだとか。夏の暑さに弱いのだ。そもそもブルベリーは日本の土地や気候にあっていないのだ。しかも対応力の幅が狭い。
 いったいぜんたい、みんなはどうやってブルベリーを育てているのか。
 とにかく、手だてを考えなくては。
 腐葉土や肥料を仕舞ってある倉庫にピートモスを探した。だいぶ前に買った記憶がある。米の十キロ袋ほどのビニールに半分ほど残っていた。足りない気がする。あと一袋買い足したほうがよいかもしれない。
 次は、地植えを決行するか、鉢植えにするかである。
 ブルベリーは鉢植えでも十分育てられるという。酸性土壌なんてものをつくり、維持し続けるためには鉢植えのほうが楽で便利だ。地植えにしたら、いずれ周囲のアルカリ土壌の影響を受けてしまう。
 しかし、木にとっては地植えのほうが伸び伸びできてよいだろうし、当初の目的は庭に楽しめる木を増やすことだ。
 庭をいったり来たりして、ピートモスの酸性土壌をつくれそうな場所を探した。場所はなんとかなりそうだったが、ちょっとした土木工事になる。なにしろいまは一本しか苗木がないけれど、もう一本買い足さないと実がつかないのである。二倍の区画を酸性化することになる。
 結局、この日はブルベリーの植え替えができなかった。買ってきたとき植えられていたプラスチックの小さな鉢のままハーブとともに出窓に置くほかなかった。プラスチックの鉢の中は、まちがいなく酸性土壌だ。安全である。
 だが、地植えにするなり、本格的な鉢植えにするなりして表に出して、仲間の木を増やさないと、せっかく咲いている花も実を付けられず無駄になる。
 このままでは

引きこもりのブルベリー

だ。
 わたしがいろいろ考えすぎてブルベリーを引きこもらせているのか、土を選り好みするブルベリーがそもそも引きこもり体質なのか。
 案外、考え込んだりしないで穴を掘って植えるだけでもけっこう育つのかもしれない。二本目の品種も売っているものを適当に買ってくればよいのかもしれない。でも、いっぺん情報を仕入れて頭でっかちになると臆病になる。
 酸性土壌の一件につまずいて、もうすぐ一週間になろうとしている。ブルベリーの苗木は元気だけれど、花の時期は終わりに近づいている。

 
 
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