「おぉ、また霧が晴れてきたぞ。だんだんまわりがハッキリ見えるようになってきたな……あぁーっ!? シゲ子が、笑いながらさっきの男の人をボコボコにしてる! おいおい! そいつがお前にいったい何をしたんだ!?」
武はシゲ子を止めに行こうとしたが、今度は霧の魔力よりも妻の勢いに圧倒されて、その場から動けなかった。
「おのれ……『オバサン』め、いいかげんにするがいい!」
サギは、シゲ子をつき飛ばし、美青年の姿から元の姿に戻った。
「へ、変身した!? 何者だあいつ!」
「もう小細工など使わんぞ……本気でお前の息の根を止めてやる!」
サギは、持っていた杖から大きな炎を放った。
「わあーっ!」
武は、闇賢者サギの攻撃に腰をぬかした。
「お、おい、シゲ子早く逃げろ! そいつは怪人だぞ!!」
武は、必死にシゲ子に呼びかけた。だが残念なことに、霧の向こうにいるシゲ子には、武の声が届かない。

「きゃーっ!」
「大丈夫ですか、シゲ子さん!?」
美原は、シゲ子のそばにかけ寄った。
「さ、さっきのカッコイイ人がいないわ〜! せっかくたくさんほめてもらったから、お礼でもしようと思ったのに、名前聞くの忘れちゃった〜」
シゲ子は、この緊迫した状況の中、まったく危機感をつのらせていない。
「落ち着いてください、シゲ子さん! さっきの男の正体は、闇賢者サギなんですよ!」
「え、あの人、ストーカー第二号だったの!?」
「フフフ……いかにも………愚かな『オバサン』……私の幻術をまんまと信じこみおって……」
「えっ! それじゃさっき言ってたことはみんな……」
「もちろん……まったくの大ウソに決まっているだろう! フフフ……なんとおめでたい『オバサン』だろうか……!」
「そ、そんなぁ〜」
シゲ子はがっくりと肩を落とした。
「フフフ……今度こそほんとうに戦う気力をなくしたようだな……ずいぶんと手こずってしまったが……これで終わりだ!」
サギは、シゲ子たちにとどめを刺そうとした。しかし、そのときシゲ子がサギの持っていた杖を、ガシッとつかんだ。
「ちょっとあんた、教えなさいよ、その『ゲンジュツ』っていうの!」
「なんだと!?」
「あんた変身できるんでしょ? そのやり方を教えてほしいって言ってるのよ!」
「何をバカなことを……そ、その手を放せ!」
「イヤよ! 教えてくれるっていうまで放さないわ! あんたみたいな陰気くさいヤツでも、あんなカンタンにかっこよくなれるんだもの! もう今までやってきたことが通用しないっていうんだったら、もう『ゲンジュツ』でも忍術でもなんでも頼るしかないのよ!」
シゲ子は、杖をつかむ手にさらに力をこめた。
「えぇい、放さんか! ううっ、ワニガメのような女だな!」
サギは、シゲ子の強情ぶりにひるんだ。
「しつこい『オバサン』め! これでどうだ!!」
サギは、渾身の力を振りしぼって、呪文を唱えた。すると、シゲ子は見えない縄で縛られたかのように動けなくなった。
「やだ、何コレぇ!?」
シゲ子は、一生懸命身体を動かそうとするが、まったく思いどおりにならない。
「お前、シゲ子さんに何を……!!」
美原はシゲ子を助けようとしたが、彼もまた、闇賢者サギの術にかかり、身体の動きを止められてしまった。
「フフフ……この技は、多くの魔力を消費するのであまり使いたくなかったのだが……しかし……これでこの戦いにもピリオドが打てそうだ……」
サギは、身動きのとれないシゲ子たちに向けて勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「あのバカ、怪人にとっ捕まっちまった! まったくモタモタしてるからだぞ、このぼんやりオバサン! バカ、バカ!! わぁー、せめて命だけは助かってくれぇ……」
武は両手を組み、必死に神に祈った。
「フフフ……勝負あったな、『オバサン』よ!」
「えぇ〜!? あたしこのまま死んじゃうの!? そんなのイヤよぉ〜!」
「あきらめないでください、シゲ子さん!」
「美原クン!?」
「まだ希望を捨ててはいけません! あなたは、こんなまやかしに惑わされて命を落とすような人ではないはずです!」
「ありがとう……でもあたしには何の力もないのよ……あのストーカー第二号が言うように、ただの『オバサン』だもの……」
「そんなことはありません! さっきまでのあなたを見て、確信しました! シゲ子さん、あなたの努力はちゃんと報われていますよ!! 僕には、今日のあなたが、今まででいちばん輝いて見えます!!!」
「えっ!?」
僕には、今日のあなたが、今まででいちばん輝いて見えます!
今まででいちばん輝いて見えます!!
今までで、いちばん、輝いて見えます!!!
「ヤッターッ!!!」
シゲ子は、うれしさのあまり、飛び跳ねながら大きくバンザイをした。
「バカな!? 私のとっておきの技を打ち破るとは!!」
信じられない光景に、闇賢者サギは目を疑った。
「おのれ……ならば、もう一度……!!」
サギは、再びシゲ子に術をかけた。しかし、シゲ子の動きは止まらなかった。
「もう一度……もう一度……!!」
何度も術を繰り返してみたが、シゲ子にはまるでかからず、それどころか、ますます元気になっている。
「なぜだ!? なぜ、それほどのパワーが出せるんだ!? 分からない……私には、まるで分からないぞ……!!」
「輝いている、輝いている! 今日のあたしはいちばん輝いている! うふふふーっ!!」
シゲ子の幸せパワーは、全開になった。
「ぎゃあああーっ!!」
サギは、自分の理解の範疇を超えた出来事を目の当たりにしたため、電子頭脳が崩壊してしまった。
「やった、闇賢者サギを倒した! シゲ子さん、今日のあなたは本当に輝いてますよ!」
「輝いている、輝いている! 今日のあたしは本当に輝いている! うふふ、まるで夢のようだわー!」
シゲ子はすでに闇賢者サギのことなどまったく頭になく、ただただ美原のほめ言葉を真に受けてうっとりしていた。
「あ、あいつ……あの怪人を、たたた倒してやんの……これ、夢だよな? 夢なんだよな!?」
いっぽう、信じられない光景を目撃してしまった武も、その現実を直視できないのであった。
次週「第六話」につづく■
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