イラスト(C)得能史子
新・脱力小説(毎週更新)
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  第五話 主婦もおだてりゃミラクル起こす

 
 

「私は『暗黒闇雲団』の偉大なる師、ヤブレカブレ様のしもべ……闇賢者サギ……王子、まことにお気の毒ではございますが……あなたの命は、この私が頂戴します!」
 シゲ子たちは、闇賢者サギが発生させた黒い霧に包囲されてしまった。
「おーい、シゲ子どこだー!? 妙だな、急にあたりが真っ暗になるなんて」
 霧の向こう側では武が、シゲ子を探している。
「フフフ……この黒い霧には魔力がありましてね……一見たよりないようですが、鉄の壁のように頑丈で、騒音だってシャットアウトできるのですよ……この霧に包まれている限り、あなたたちは逃げることも助けを呼ぶことも不可能なのです……おとなしく私のいうことに従ってください」
 サギは、じりじりとシゲ子たちのほうに近づいてきた。
「シゲ子さん、下がっててください! いくら強いあなたでも、こいつの魔術には……わあぁ!」
 美原は、サギからシゲ子を守ろうとしたが、逆にシゲ子に押しのけられてしまった。
「ちょっとアンタ、ストーカー第二号ね!? どういうつもりなのよ、『あなたの命は、この私が頂戴します』って! さては美原クンを、強引に独り占めしようっていう魂胆ね!?」
 シゲ子は、猛然とサギに向かって行く。
「フフフ……大丈夫ですよ、そのようなことは思っておりません……王子よ! これをごらんなさい!!」
 サギは、空中にスクリーンを出現させた。
 そこには、黒い霧に包まれた城下町の様子が映っていた。
「ああっ!」
「フフフ……あなたの祖国アスコルビン……ですが、今やこの国は完全にヤブレカブレ様の支配下に置かれています……」
「なんてことを! 民は……民は無事なのか!? それに父上たちは!?」
「ご安心を……まだ死んではおりません……王子よ……この者たちの生死は、あなたの意志にかかっているのです……」
「なんだと!?」
「あなたのお命を我々に差し出すというのならば、アスコルビンの民は解放いたしましょう……ですが、刃向かった場合は――」
「どこまでも卑劣なマネを! だが仕方ない、祖国を救えるのならばこの命――」
「キャーッ! ダメよ! 美原クン死なないで!!」
 シゲ子は美原を必死に押しとどめた。
「しかし、このまま民を見殺しにするわけにはいきません!」
「だまされないで! これはきっとワナよ。あんなうさんくさい悪者が、そうやすやすと人質を自由にするモンですか! あいつ、美原クンを亡き者にした後、国民も始末するか、ドレイとしてコキ使うに決まってるわ! ちょっとストーカー第二号、美原クンを倒すのなら、まずはこのあたしをやっつけてからにしなさい!」
 シゲ子は、いつになく戦う気マンマンになっていた。
「フフフ……残念ながら、私はあなたと戦うことはできません……」
「なんですって!? きゃあっ!」
 サギは、持っていた杖を振りかざした。すると、杖からカメラのフラッシュのような光が放たれ、シゲ子は目がくらんだ。
 そして再びシゲ子が目を開けると、闇賢者サギの姿はなく、代わりに人の良さそうな美青年が立っているのが見えた。
(あら? こんなカッコイイ人、いつの間に現れたのかしら!?)
 シゲ子は、どこからともなく登場した美青年をまじまじと見つめた。
(あら? 少し好みのタイプだわ)
「お嬢さん、私はあなたと戦いたくなどないのです……なぜなら、あなたのような美しい人には暴力など、まったく似合わないから!」
 美青年は、シゲ子に微笑みかけた。
「えっ、あたしが美しい? それホント!?」
「フフフ……本当ですとも。私は、こんなにも若々しく麗しい女性に出会ったことなど今まで一度もありません……」
「まぁ、うれしい〜!! 今まで誰もそんなこと言ってくれなかったけど、やっぱり分かる人には分かるのね〜♪ がんばってきた甲斐があったわ〜♪」
 シゲ子は、みるみるうちに上機嫌になった。
「シゲ子さん、惑わされないでください! この男の正体は闇賢者サギです! こいつは、変身の術が使えるんです!」
 美原は警告したが、ほめられて有頂天になっているシゲ子の耳にはまるで届かない。
「フフフ……さすがの『オバサン』も、おだてには弱いようですね……さぁ、そろそろとどめを刺すとしましょう……さよなら王子、そして『オバサン』……んんっ!?」
 美声年と化した闇賢者サギの目の前に、シゲ子がずいっと迫ってきた。
「ねぇっ! ちょっと参考までに聞きたいんだけどっ!! あたしのどこが特に美しいって思った? 顔? 肌質? もしかしてファッション? それとも内面から漂う大人の女性のオーラ? なんちゃって〜!」
「えっ……!」
「やっぱり肌質かしらねぇ〜? ほら、洗練された男の人って女の人を見るときは、まず肌に目が行くっていうでしょ!? 胸とかおしりとかじゃなくて。だけど、ファッションもなかなかでしょ? ねぇ、こんな感じのスタイルってゴージャスでイケてない? どう? どうよ!?」
「ど、どうって言われても……」
 突然の反撃に、サギは動揺した。その影響で、魔術のバランスが少しくずれてきた。
 
「おや? 霧が少し晴れてきたな。まだボンヤリしてるけど視界が開けてきたぞ。お〜い、シゲ子どこだ〜」
 武はあたりを見まわした。
「ん? 男がいるぞ……でも、さっきのヤツとは別人だな」
 武は霧を手でかき分け、さらに目をこらしてみた。
「わーっ! シゲ子、どうしてそんなにその男につっかかってるんだ!? おい、いい年してスケバンみたいなマネはよせよ!」
 武はシゲ子を取り押さえようとしたが、まだ霧の効果が続いているため、シゲ子のそばには近づけないでいた。
「くそっ、どうなってるんだ!? いつまでたってもシゲ子のところにたどり着けない……もしかして今見ているのは幻なのか? でもそれにしちゃ、シゲ子の迫力がすごくリアルだし……イヤな蜃気楼だなぁ」
 武は気持ちが悪くなった。
 
 いっぽうシゲ子は、夫が自分の様子を観察していることなどまったく気づかず、夢中で闇賢者サギに質問を投げかけている。
「ねぇ、ど〜ぉ? どこだと思う? どこがいちばん美しい?」
「それは……あなたのおっしゃったとおりだと思います」
「それって、肌質とファッションってこと?」
「えぇ、そうです」
 サギは、シゲ子を怒らせないよう無難な回答をして逃げた。
「やだ、うれしー! やっぱスキンケアは続けるべきね! それにこのファッションのおかげで、より自分の個性が引き立つのよ! まったく、モグラもみどりさんも古いのよね〜。あたしと違って、おとなしくて地味なほうに傾いちゃうんだから〜♪」
 シゲ子はすっかりいい気分になり、人目もはばからず大きな高笑いをあげた。
「じゃあ、次の質問だけど……あたしいったいいくつに見える?」
「ええっ!?」
「さっきあなたあたしのこと、『若々しく麗しい』って言ったでしょ? てことは、あたしのこと何歳くらいだと思ってるの?」
「それは……」
 思わぬ連続攻撃に、さすがのサギも不意を突かれたようである。
「ねぇ、どうなの? 何歳くらいに見える?」
「その……」
「ちょっと! どうしてだまってるのよ! もしかして、さっき言ってたことはウソだったの!?」
「いいえ、そんなことはありません……私はつい、あなたの美しさに見とれてしまっていたのですよ……きっとあなたは……二十八歳ですね?」
 サギは、シゲ子を油断させるためにあからさまなおせじを言った。
「に……二十八歳!? それホント!? ウソ言ってない!?」
 シゲ子は、闇賢者サギにつめ寄った。
「えぇ……私にはあなたが二十八歳に見えます……」
 サギがそう言うと、急にシゲ子はおとなしくなった。
「どうしました……まさか二十八歳では不満なのですか?」
「うそーッ! やだーッ!」
「うわあっ!」
 シゲ子は顔を上げたかと思うと、いきなりサギに強烈な一撃をくらわせた。
「ううっ、不意打ちとはひきょうなマネを……!!」
 サギは、憎々しげにシゲ子の顔を見つめた。
 だがシゲ子の表情は、怒りではなく幸せのオーラに満ちあふれていた。
「うそーッ! やだーッ! 超ウレシーッ! あたし二十八歳に見えるのね! スゴーイ!」
 シゲ子は喜びのあまり、我を忘れて大はしゃぎした。
「どうしましょ! これから年齢聞かれたら、二十八歳って答えちゃおうかしら! キャーッ! でも、なんだかハズカシー!」
 シゲ子は、またもや猛烈な勢いでサギを打ちのめした。
「や……やめろ! 私をたたくな!! 貴様は、手加減というものを知らんのか!?」
 幸せを夢中でかみしめているシゲ子に対して、苦しみをひたすら味わう闇賢者サギ――彼はあまりにもダメージを受けたせいで、もはやインテリ口調を使う余裕すらなくなってしまっている。
「すごい、異次元において最強の魔力の持ち主だと言われている闇賢者サギを、あんなに鮮やかにたたきのめせるなんて! それに前回の戦いのときよりも、シゲ子さんは明らかにイキイキしている! もしかして、さっきシゲ子さんの言っていた『努力』って、このためのものだったのか!?」
 美原は、戦いの様子を見守りながら都合の良い勘違いをしていた。

次週「第五話 主婦もおだてりゃミラクル起こす 2」につづく■

 

 
 
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