イラスト(C)得能史子
新・脱力小説(毎週更新)
7月
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  第六話 夫は見ていた!

 
 

「お見事です、シゲ子さん!」
 美原は、シゲ子に向かって拍手した。
「ありがとう、これもみんな美原クンのおかげよ!!」
「いいえ、僕は何も……シゲ子さんの実力ですよ」
「そんなことないわよ! あたし、美原クンがいたからここまでやってこれたの!! そうじゃなかったらきっと、とっくの昔にギブアップしてたと思うわ」
「うれしいです、シゲ子さんがそんなに僕のためを思って……」
 美原の瞳はキラキラと輝いた。
「そうよ、美原クン! あたしはあなたのためを思って……!!」
 シゲ子の瞳もキラキラと輝いた。
「強さに磨きをかけてくれていたなんて!」
(えーっ!?)
 シゲ子は、とてつもなく衝撃を受けた。
「ご、誤解してるわ美原クン! あたしが磨きをかけたのはねぇ……」
 シゲ子は、自分の容姿をアピールしたが、美原はまったく気にとめない。
「さきほどの戦いのときのシゲ子さんは、まさに、戦場に立つ軍神のようでした!」
「ぐ、軍神!?」
「そうです! 力強くて荒々しさがあって……ほんとうに輝きに満ちていましたよ!!」
 シゲ子は、ヘナヘナと地面にくずれ落ちた。
「どうしました、シゲ子さん? 大丈夫ですか!?」
「ちょっと大丈夫じゃないかも……」
「さすがに、お疲れのようですね。すみません、毎回何のお力にもなれなくて」
「平気よ。あたしタフだから……」
 そう言いつつ、シゲ子はすっかり元気がなくなってしまっていた。
「そうだ、シゲ子さん。最近このあたりに新しいカフェがオープンしたの知ってますか?」
「えっ?」
 シゲ子は顔をあげた。
「よかったら、今度いっしょに行きましょう。もちろん僕がおごりますんで」
「えぇーっ!! いいの? いっしょになんて!?」
「もちろんですよ。せめてこれくらいのお礼はさせてください」
「うれし〜ィ! じゃ、じゃあ連絡がとりあえるようメアド交換しない?」
「いいですよ」
「やった〜♪……んっ!?」
 シゲ子は、駐車場のほうを見た。
「どうかしましたか、シゲ子さん?」
「うぅん、さっきまで誰かに見られてたような気がしたんだけど……気のせいだったのかしら?」
 シゲ子は、首をかしげた。
 
「なんだかんだあったけど、けっこう充実した一日だったわ〜♪」
 シゲ子は、ニヤニヤしながら夕飯のおかずを食卓に並べた。
「ねぇ〜、お母さんどうして今日の煮物こんなに甘いの?」
 麦恵は、一口食べただけで顔をしかめている。
「そう?」
「うわっ、みそ汁も甘い!! お母さん、いったい何入れたの!?」
「あぁ、みりんが切れてたんで代わりにハチミツ使ったのよ。料理にハチミツ使うと、コクが出ておいしいのよ〜♪ たくさん食べて、麦恵ちゃんも甘い気持ちになりなさ〜い♪」
「これじゃ甘過ぎて気持ちが悪いよ〜! ねぇ、お父さんもそう思うよね!?」
 麦恵は、武に同意を求めた。しかし、武はじっとしたまま黙っている。
「お父さん?」
「シゲ子、夕飯終わったらちょっと話がある」
 武は、夕飯のおかずなどまるで眼中にない様子だった。
 
「な〜に!? 話って」
「シゲ子、お前今日の昼過ぎ何してた!?」
「何って、フラワーアレンジメント教室に行ってたわよ」
「本当か!? 本当に、それだけか!?」
「そうよ。他に何するっていうのよ?」
「じゃあ、今日お前といっしょにいた奴は誰なんだ!?」
 武の追及に、シゲ子はギクリとした。
(やだわこの人、あたしと美原クンがいっしょにいるところを目撃したのね!)
「別に……なんでもないわ。ただの知り合いよ」
「知り合いだと!?」
「そうよ。フラワーアレンジメント教室で仲良くさせてもらってるの。親切で、みんなからとっても評判が高いのよ!」
「し、親切!? あんな怪しげな奴がか?」
「ちょっと、そんな言い方しないでよ! お父さんに美原クンの何が分かるっていうの!! あんなに癒しのオーラが出ている人なんてこの世の中になかなかいないわよ!」
「癒しのオーラじゃなくて、邪悪なオーラだろう! ミハラだかタカマガハラだが知らないが、俺はあんな怪人と一秒たりともいっしょにいたくないぞ!!」
「えっ、カイジン!?」
「そうだ、シゲ子。俺は見たんだ。お前が、昼下がりに、市民会館の駐車場付近で、見知らぬ怪人と……戦っているところを!!」
(な〜んだ、気になってるのは「愛人」じゃなくて、「怪人」のことだったのね)
 シゲ子は、少し気が抜けた。
「いつからだ?」
「何がよ」
「その……戦い始めたのは」
「あ〜、最近よ。つい最近」
 シゲ子は、いかにも面倒くさそうに答えた。
「何がきっかけだ、地球防衛軍から要請が来たのか!?」
「そんなたいそうなモンじゃないわよ。たまたまそんなことになったのよ」
「たまたまって……お前、普通の主婦だろ!? 平凡に暮らしてるのに、どうやったらそんな大変なことに巻き込まれるんだよ!? まさか……お前の行ってるフラワーアレンジメント教室は、実は特殊部隊の秘密基地になってるとかいうんじゃないだろうな!?」
「何バカなこと言ってんのよ。そんなことあるわけないじゃない」
「じゃあ、これはいったいなんなんだ!」
 武は、シゲ子が教室で購入した化粧水をテーブルの上に置いた。
「……なんでお父さんがコレ持ってるのよ!」
「この前の夜中に見つけたんだよ。お前が、洗面所でパワーアップだとかなんとか言ってたから気になって、ちょっと調べてみたんだ。シゲ子……これは、能力増強アイテムなのか!?」
「はぁ!?」
「ただの主婦のお前が、あんな強そうな怪人に勝てるわけがない! アイテムを使って、能力を強化してるんだろ!? そうとしか考えられないぞ!」
「まぁ、確かに(お肌にとっては)頼もしいアイテムだけど……」
「やっぱりそうか! シゲ子、お前今夜からこれ使うのやめろ」
「どうしてよ! それがないと、あたしは……」
「心配するな。お前はもう戦わなくていい。怪人と戦ってるなんてことがご近所にバレたら、いったい何言われるか分かったもんじゃないからな」
「戦いのことはどうでもいいじゃない! あたしにはそれが必要なのよ。返して!」
「ダメだ、これは俺が使う!」
 武は、化粧水のふたを開けるとドバッと自分の頭にふりかけた。部屋中にバラの香りがムンムンと漂った。
「あーっ!」
「シゲ子、安心しろ。これからはお前の代わりに俺が怪人を……」
「なんてことするのよ〜! それは顔に使うものなのに〜!!」
「何? 顔に使わないと意味ないのか!?」
「あったり前じゃないのよ! まったく怪人、怪人ってバカなことばっかり言って! あたしが何をやろうと、キングギドラと戦おうとあたしの自由じゃないの! ほっといてちょうだい!!」
 シゲ子は怒って、部屋を出て行ってしまった。
「なにっ!? シゲ子、お前キングギドラと戦ったこともあるのか!? おい、詳しい話を聞かせろ!」
 シゲ子を追いつつ、武は頭からしたたり落ちる「強化アイテム」をしっかり顔に染みこませた。

次週「第六話 夫は見ていた! 2」につづく■

 

 
 
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