「お見事です、シゲ子さん!」
美原は、シゲ子に向かって拍手した。
「ありがとう、これもみんな美原クンのおかげよ!!」
「いいえ、僕は何も……シゲ子さんの実力ですよ」
「そんなことないわよ! あたし、美原クンがいたからここまでやってこれたの!! そうじゃなかったらきっと、とっくの昔にギブアップしてたと思うわ」
「うれしいです、シゲ子さんがそんなに僕のためを思って……」
美原の瞳はキラキラと輝いた。
「そうよ、美原クン! あたしはあなたのためを思って……!!」
シゲ子の瞳もキラキラと輝いた。
「強さに磨きをかけてくれていたなんて!」
(えーっ!?)
シゲ子は、とてつもなく衝撃を受けた。
「ご、誤解してるわ美原クン! あたしが磨きをかけたのはねぇ……」
シゲ子は、自分の容姿をアピールしたが、美原はまったく気にとめない。
「さきほどの戦いのときのシゲ子さんは、まさに、戦場に立つ軍神のようでした!」
「ぐ、軍神!?」
「そうです! 力強くて荒々しさがあって……ほんとうに輝きに満ちていましたよ!!」
シゲ子は、ヘナヘナと地面にくずれ落ちた。
「どうしました、シゲ子さん? 大丈夫ですか!?」
「ちょっと大丈夫じゃないかも……」
「さすがに、お疲れのようですね。すみません、毎回何のお力にもなれなくて」
「平気よ。あたしタフだから……」
そう言いつつ、シゲ子はすっかり元気がなくなってしまっていた。
「そうだ、シゲ子さん。最近このあたりに新しいカフェがオープンしたの知ってますか?」
「えっ?」
シゲ子は顔をあげた。
「よかったら、今度いっしょに行きましょう。もちろん僕がおごりますんで」
「えぇーっ!! いいの? いっしょになんて!?」
「もちろんですよ。せめてこれくらいのお礼はさせてください」
「うれし〜ィ! じゃ、じゃあ連絡がとりあえるようメアド交換しない?」
「いいですよ」
「やった〜♪……んっ!?」
シゲ子は、駐車場のほうを見た。
「どうかしましたか、シゲ子さん?」
「うぅん、さっきまで誰かに見られてたような気がしたんだけど……気のせいだったのかしら?」
シゲ子は、首をかしげた。
「なんだかんだあったけど、けっこう充実した一日だったわ〜♪」
シゲ子は、ニヤニヤしながら夕飯のおかずを食卓に並べた。
「ねぇ〜、お母さんどうして今日の煮物こんなに甘いの?」
麦恵は、一口食べただけで顔をしかめている。
「そう?」
「うわっ、みそ汁も甘い!! お母さん、いったい何入れたの!?」
「あぁ、みりんが切れてたんで代わりにハチミツ使ったのよ。料理にハチミツ使うと、コクが出ておいしいのよ〜♪ たくさん食べて、麦恵ちゃんも甘い気持ちになりなさ〜い♪」
「これじゃ甘過ぎて気持ちが悪いよ〜! ねぇ、お父さんもそう思うよね!?」
麦恵は、武に同意を求めた。しかし、武はじっとしたまま黙っている。
「お父さん?」
「シゲ子、夕飯終わったらちょっと話がある」
武は、夕飯のおかずなどまるで眼中にない様子だった。
「な〜に!? 話って」
「シゲ子、お前今日の昼過ぎ何してた!?」
「何って、フラワーアレンジメント教室に行ってたわよ」
「本当か!? 本当に、それだけか!?」
「そうよ。他に何するっていうのよ?」
「じゃあ、今日お前といっしょにいた奴は誰なんだ!?」
武の追及に、シゲ子はギクリとした。
(やだわこの人、あたしと美原クンがいっしょにいるところを目撃したのね!)
「別に……なんでもないわ。ただの知り合いよ」
「知り合いだと!?」
「そうよ。フラワーアレンジメント教室で仲良くさせてもらってるの。親切で、みんなからとっても評判が高いのよ!」
「し、親切!? あんな怪しげな奴がか?」
「ちょっと、そんな言い方しないでよ! お父さんに美原クンの何が分かるっていうの!! あんなに癒しのオーラが出ている人なんてこの世の中になかなかいないわよ!」
「癒しのオーラじゃなくて、邪悪なオーラだろう! ミハラだかタカマガハラだが知らないが、俺はあんな怪人と一秒たりともいっしょにいたくないぞ!!」
「えっ、カイジン!?」
「そうだ、シゲ子。俺は見たんだ。お前が、昼下がりに、市民会館の駐車場付近で、見知らぬ怪人と……戦っているところを!!」
(な〜んだ、気になってるのは「愛人」じゃなくて、「怪人」のことだったのね)
シゲ子は、少し気が抜けた。
「いつからだ?」
「何がよ」
「その……戦い始めたのは」
「あ〜、最近よ。つい最近」
シゲ子は、いかにも面倒くさそうに答えた。
「何がきっかけだ、地球防衛軍から要請が来たのか!?」
「そんなたいそうなモンじゃないわよ。たまたまそんなことになったのよ」
「たまたまって……お前、普通の主婦だろ!? 平凡に暮らしてるのに、どうやったらそんな大変なことに巻き込まれるんだよ!? まさか……お前の行ってるフラワーアレンジメント教室は、実は特殊部隊の秘密基地になってるとかいうんじゃないだろうな!?」
「何バカなこと言ってんのよ。そんなことあるわけないじゃない」
「じゃあ、これはいったいなんなんだ!」
武は、シゲ子が教室で購入した化粧水をテーブルの上に置いた。
「……なんでお父さんがコレ持ってるのよ!」
「この前の夜中に見つけたんだよ。お前が、洗面所でパワーアップだとかなんとか言ってたから気になって、ちょっと調べてみたんだ。シゲ子……これは、能力増強アイテムなのか!?」
「はぁ!?」
「ただの主婦のお前が、あんな強そうな怪人に勝てるわけがない! アイテムを使って、能力を強化してるんだろ!? そうとしか考えられないぞ!」
「まぁ、確かに(お肌にとっては)頼もしいアイテムだけど……」
「やっぱりそうか! シゲ子、お前今夜からこれ使うのやめろ」
「どうしてよ! それがないと、あたしは……」
「心配するな。お前はもう戦わなくていい。怪人と戦ってるなんてことがご近所にバレたら、いったい何言われるか分かったもんじゃないからな」
「戦いのことはどうでもいいじゃない! あたしにはそれが必要なのよ。返して!」
「ダメだ、これは俺が使う!」
武は、化粧水のふたを開けるとドバッと自分の頭にふりかけた。部屋中にバラの香りがムンムンと漂った。
「あーっ!」
「シゲ子、安心しろ。これからはお前の代わりに俺が怪人を……」
「なんてことするのよ〜! それは顔に使うものなのに〜!!」
「何? 顔に使わないと意味ないのか!?」
「あったり前じゃないのよ! まったく怪人、怪人ってバカなことばっかり言って! あたしが何をやろうと、キングギドラと戦おうとあたしの自由じゃないの! ほっといてちょうだい!!」
シゲ子は怒って、部屋を出て行ってしまった。
「なにっ!? シゲ子、お前キングギドラと戦ったこともあるのか!? おい、詳しい話を聞かせろ!」
シゲ子を追いつつ、武は頭からしたたり落ちる「強化アイテム」をしっかり顔に染みこませた。
次週「第六話 夫は見ていた! 2」につづく■
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