「あらっ!?」
風呂あがりに体重計に乗ったシゲ子は、目を丸くした。
「減ってる! ほんのちょびっとだけど、体重が減ってるわ! ダイエットの成果があらわれたのかしら!? これで、ひとまわり小さいサイズの服が入るかもしれないわね!」
気分を良くしたシゲ子は、翌日、デパートへショッピングに出かけることにした。
「ダイエットに成功したことだし、今日はちょっぴり贅沢しちゃいましょ……あらっ!?」
シゲ子の目に、「紳士カジュアルバーゲン」という文字が飛び込んできた。
「まー、ワイシャツが安いわ! 靴下も!! お父さんに何枚か買っていってあげようかしらね……んっ!? 今日は自分の服を買いに来たのに、
あーいやだいやだ。つい、いつものクセが出ちゃったわ」
シゲ子は、あわてて婦人服売り場に向かった。
「う〜ん、美原クンと歩いても親子だと思われない服ってないかしら……」
「何をお探しですか?」
店員がシゲ子に話しかけてきた。
「あの、おばさんくさく見えない服なんて売ってませんよね?」
「……お若く見える服ですね……これなんていかがでしょう?」
店員は、入荷したばかりのシャツをシゲ子に広げて見せた。
「それ、ちょっと地味じゃない? もっと明るい色はないの? ほら、あそこに飾ってあるやつみたいな」
シゲ子は、向かいの店先に飾ってあるどぎついピンクの服を指さした。
「お、お客さま、あちらはギャルブランドの店舗です。お客さまには少し派手かと……」
「でもあたし、ピンクがいちばん似合うって言われたことがあるのよ! ずいぶん昔だけど。えーと、誰が言ってたのかしらねぇ〜」
「では、こちらのほうがよりお似合いではないかと思うのですが……」
店員は、上品な淡いピンクのアンサンブルを持ってきた。
「悪くないけど、形がちょっとシンプルね。もっと個性的なのが欲しいわ。でもって、着たら十五歳くらい若く見えるようなやつ」
「はぁ……ちょっとお待ちいただいてよろしいですか」
そして数分後、店員は息を切らせて戻ってきた。
「おっ、お待たせいたしました。こちらはいかがでしょうか?」
と、シゲ子に大きなレースがたくさんついたピンクのスカートを手渡した。ずっと売れ残っていた商品のようである。しかし、
「あら、これいいわね! かわいいし、オバサンくさくなくてとってもステキ! これ、試着してみてもいいかしら?」
シゲ子は一目で気に入った。
「えっ!? えぇ、かまいませんよ……」
言葉とは裏腹に、店員の顔はひきつっている。
「キャーッ! ちょっと、ちょっと来て!」
シゲ子は、試着室の中から店員を呼んだ。
「お客さま、いかがなさいましたか? ご気分でも――ヒイイッ!!」
「見てこれ! あたしに超ピッタリじゃない!? すごいわ、まるでアイドルになったみたい!」
シゲ子は、試着室の鏡に向かって、満足そうにポーズをとっていた。
「これにするわ! これちょうだい!!」
「は、はぁ……お買い上げありがとうございます」
絶叫マシンに乗った後のような面持ちの店員を尻目に、シゲ子はスキップで店を後にした。
「うふっ、いい買い物しちゃった! 来週の日曜日には、絶対このスカートをはいていきましょ! 美原クンなんて言ってくれるかしら?」
シゲ子は、頭の中でシミュレーションを始めた。
「シゲ子さーん! すみません、遅れちゃって」
「美原クン! いいのよ、あたしが早く来過ぎちゃったの!!」
「うわぁシゲ子さん、そのスカートとってもお似合いですね!」
「そ、そうかしら?」
「まるでお姫さまみたいですよ。すごくかわいいです!」
「そんな、お姫さまだなんて……あらら? なんか前にこんな会話を誰かとしたような気がするんだけど……そんなわけないわよね。あたしにそんなこと言ってくれる男の人なんて、いるはずがないもの」
シゲ子がため息をついていると、武が部屋に入ってきた。
「シゲ子、何してるんだ?」
「お父さんっ! 勝手に部屋に入ってくるのやめてちょうだいよ!!」
シゲ子は、あわててスカートを隠した。
「お、お前がいつまでたっても部屋から出てこないんで、ちょっと気になったんだよ」
「ちょっと考えごとしてただけよ。地球防衛軍と交信なんてしてないから安心して」
と、武を追い払った。
「フンだ。今さらあたしのことを気にかけたって、もう遅いわよ。あたしは来週、愛の一大勝負をかけるんですからね♪ あぁ〜、日曜日が楽しみだわ」
いっぽう部屋から出された武は、ドアに耳をくっつけて必死にシゲ子の独り言を盗み聞きしていた。
「一大勝負だと!? まさかシゲ子、日曜日にいよいよ悪の首領との決戦を迎えるのか!?」
そして、日曜日――。
「ハッ、もう九時!? 五時に起きようと思ったのに!! もう約束の時間まで一時間しかないわ!」
シゲ子は、急いで着替えようとした。
「待てよ、このスカートで出かけようとしたら、お父さんが『派手すぎる』とかなんとか文句言ってくるかもしれないわね……」
そこで、クローゼットから丈の長いコートを取り出して羽織ってみる。
「よし、これでスカートがすっぽり隠れるわ。う〜ん、でもちょっと暑いわね〜」
「あれ、お母さんこんな朝早くからどこ行くの?」
階段を下りる途中、シゲ子は麦恵に声をかけられた。
「ちょ、ちょっと買い物にね」
「えっ、そんな厚手のコート着て? 魚市場にでも行くの?」
「え〜と、その……ゴメン、ちょっと急ぐの! 台所にパンがあるから、それ朝ごはんに食べて。それじゃっ!」
麦恵にそう告げると、そのまま玄関を飛び出した。
「フー、あせったわ。でもお父さんに見つからなくてよかった。きっとまだ寝てるのね。のんきなもんだわ」
そう呟きながら、着ていたコートを脱いだ。
「あぁ、スッキリした! さぁ、いよいよ楽しいデートの始まりよ!! こんなドキドキ何十年ぶりかしら? あぁ、早く美原クンに会いたい!!」
シゲ子は、コートを脇に抱えたまま、全速力で市民会館に向かった。
次週「第七話 今日のあなたはお姫さま 2」につづく■
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