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オレゴンロッタリー(宝クジ)のひとつ、パワーボールというヤツの賞金が、二億ドルまで上がった。ずっと当たりが出ず、そのつど賞金が繰り越されているうちに、こんなに膨らんでしまったのだ。
一から四十二までの番号からパワーボールと呼ばれる番号をひとつ、それとは別に一から五十三までの番号から五つ、合計六つの番号の組み合わせである。クジは、スーパーマーケットやコンビニエンス、レストランなどで買える。クイックピックで、と頼めば機械がランダムに番号を選んでくれるし、マークシートを自分で塗りつぶして自分の好みの番号を選ぶこともできる。抽選日は水曜と土曜の週二回。オレゴンロッタリーにはほかにもいくつかのクジがあり、収益の一部は、オレゴンの公立学校や州立公園、地元のビジネスなどをサポートするために使われるそうだ。
私はいつもフレッドマイヤーという大きなスーパーにある機械でクジを買う。ここの機械はマークシートを戻してくれるので、毎回同じものを使えるのだ。もう何週間も買い続けている五組の番号は、どれも中華屋のフォーチュンクッキーに入っていたおみくじに書かれていたラッキーナンバーだ。先日、二億ドルを狙って買ったときには、思わず機械を拝んでしまった。
当たる確率は、一億二千五十二万六千七百七十分の一、とオレゴンロッタリーのパンフレットに書いてある。まず当たらない、と言われているようなものである。が、ウチの夫は言うのだ。「確率はふたつにひとつ。当たりかはずれかどっちかだ」と。その昔に学校で習った「確率」とはちょっと違う気もするが、力を込めて言われると、なんだか妙に説得力がある。
さて、今回は地元のファストフードチェーン、バーガーヴィルについて書こうと思う。宝クジを毎週買い、ファストフード屋で食事している私。つましい感じもするが、まあ、格好ばかりつけていても仕方がない。
バーガーヴィルというハンバーガー屋は、東海岸では見たことがなかった。
「バーガー村」
というそのネーミングからして垢抜けない感じがして、実は今までちょっと小ばかにしていた。だいたい、我が家は必要に迫られない限りファストフードはほとんど食べないのである。
が、曲がりなりにもオレゴニアンになった以上、このあたりでよく見かけるバーガー村をいつか試してみる必要があるのでは、と思っていた。それで、先日、ついに意を決して(ってそれほどのことではないのだが)バーガーヴィルに行ってみることにしたのだ。ファストフードチェーンなんてどこも似たり寄ったりだろうな、とか、バーガーヴィルなんて見るからに弱小チェーンでの食事は気が滅入っちゃうんじゃないだろうか、とか、ほかに選択肢がないならともかく、限られた人生のうちの貴重な一食を無駄にしてしまう気がするなあ、とか、いろんな気持ちが交錯した。ファストフード店特有のプラスチッキーな感じの漂う店内に、こそこそと入っていった。
注文カウンターのまえで散々悩んだ末、私はペパーベーコン・ティラムックチーズバーガーとストロベリーシェイクを、夫はハリバット(辞書にはオヒョウと書いてある。大型のカレイらしい)のフィッシュアンドチップスを頼んだ。飲み物はすぐにもらえたが、あとは番号札だけ。ファストフードとはいうものの、注文してから作るらしく、食べ物が出てくるまでに少し時間がかかる。窓の外を見れば、ドライブスルーで注文した車が、注文場所と受け取り場所の間に用意されたスペースに停車して待っている。
オレゴニアンらしく愛想のいい店員が持ってきたバーガーと魚フライには、正直いって感心した。ビーフのパテがもう少し厚いといいなあとは思ったが、ピクルスがたくさん入ったバーガーはパンチが効いていてなかなかだし、ハリバットのフライは、外側がカリッ、中の白身がぷりっ。小さな容器に入ったタルタルソースの酸っぱさがちょうどいい。ファストフード店とばかにしていたけれど、実は、ちょっとまえにあるレストランで食べた、油ギトギトのフィッシュアンドチップス(焦点のぼやけたタルタルソースつき)なんかよりも、魚もソースもずっとおいしかったのだった。
トレーの上に敷いてあった紙には、「アメリカ北西部の材料を仕入れている、ということは、地元の経済に貢献しているということです」とあった。ワシントンとオレゴンの地図が描いてあり、バーガーヴィルで使用している材料を、どこのなんという業者から仕入れているのかが記してある。例えば、私が食べたチーズバーガーのティラムックチーズというのは、オレゴンの西側、海岸に近いところにあるチーズメーカーで、私も以前に工場見学をしたことがある。
オレゴン、ワシントン地区に三十九店舗あるというバーガーヴィルでは、材料の八十パーセントをオレゴン、ワシントン、アイダホから調達しているそうである。単に品質がよくて新鮮だからというだけでなく、地元の人々の手によって作られたものだから、と。経済性を追求するあまり、安ければどこからでも仕入れるという店ではないらしい。「健全な地元の経済が、北西部をより住みやすいところにすると信じています」とトレーの紙に書かれていた。「バーガー村」などという一見垢抜けない店の名前は、実はこの徹底した「地元主義」を反映しているわけだ。
今月号のグルメマガジンに、このバーガーヴィルの記事が掲載されていた。こともあろうに「グルメ」と名のつく雑誌のレストランレビューのページ(ときに辛口の批評を載せたりもするページだ)に、サンフランシスコ、ニューヨークのしゃれたレストランと並んで紹介されていたのである。
「ほかとはちょっと違うファストフードチェーン」と見出しのついた記事は、バーガーヴィルの地元主義と関連して、旬の素材を使った季節限定メニューを紹介していた。一月から四月のチョコレートヘーゼルナッツシェイク、春のストロベリーシェイク、それに秋のパンプキンシェイクなどなど。バーガー村、などと小ばかにしていたのはどこへやら、パンプキンシェイクってどんな味だろう、と、秋の到来がちょっと待ち遠しい。
そんなわけでバーガー村をこれからも贔屓にしよう、と心に決めた矢先に、日本の「マクドナルド六十秒キャンペーン」というニュースを目にした。注文の多少に関係なく、レジ脇に置いた
六十秒の砂時計
で注文品が揃うまでを計り、一分を過ぎてしまった場合にはコーラかポテトの引換券をサービスするそうなのだ。
「ファストフードの原点にもとづいたサービスを提供したい」とのことである。記事によると、このキャンペーンを先行実施した一部店舗では一時間当たりの客数が新記録を達成したところもあったとか。
色鮮やかな制服を着た店員が、砂時計を逆さまにするや、ビデオの速回しのようにカウンター内を走り回って注文品を用意する姿が浮かぶ。売上が芳しくないファストフードチェーンの苦肉の策、という感じがして私の目には痛々しく映るのだが、新記録を達成したということは、日本にはこういうのを面白がる人がけっこういるということか。いずれにせよ、バーガーヴィルでは到底できないキャンペーンである。
一分以内に注文品が揃わず、コーラかポテト(いずれも小サイズ)の引換券を手に入れた客は「ラッキー」と思うのかもしれないが、その券を持って次回に来店したときには引換券を使うだけでなく、また何か別のものも注文するはずである。そのときには、店の側が「ラッキー」と思う番だ。サービスといいつつ、結局は彼らの思うツボ。踊らされているのである。
しかしまあ、毎週せっせと宝クジを買ったり、バーガーヴィルで七月にラズベリーシェイクが限定販売されると聞きつけてちょっと浮き足立ったりしている私も、踊らされているといえば踊らされているか。ま、よかろう。私は地元の経済に貢献しているのだ。
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