週末、桜が見ごろだった。いつもは三月二十日ごろに花見をするので、今年は二週間ほど遅い。
ポートランドの街を東西に分けるウィラメット川沿い、西側のウォーターフロントパークにソメイヨシノらしき桜が百本ほど植わっている。晩春のような陽気に誘われたポートランダーたちが、犬を散歩させたり、自転車に乗ったり。芝生の上に敷物を敷いてお弁当を広げる人たちには――私たちも含め――アジア系が多い。
これが日本だったら、こんなに静かではなかろう、と思った。お好み焼きやらたい焼きやらの屋台が出て、カラオケもあって、お弁当だけでなく、ビールにワインに日本酒……。
アメリカでは、公共の場での飲酒を禁じているところが多い。公園やその辺の通りでアルコールを飲んではいけないのだ。ニューヨークの街角で茶色の袋に入れた瓶からウィスキーなどぐびりと飲んだりする場面が映画に時々あるが、あれは、公共の場での飲酒が禁止されているからこその茶袋なのである。
連邦政府の法律ではないから、場所によって扱いが違うらしい。カリフォルニアやジョージア、インディアナなどの州では、公共の場での飲酒は軽犯罪とみなされるが、ネバダではお咎めなし。オレゴンでは、町ごとの決まりらしく、ポートランドではダメだが、郊外にあるフォレスト・グローブという町では、公園などで昼間からお酒を飲んでも構わなかったそうだ。「構わなかった」と過去形なのは、去年の秋から、この町でもパブリックスペースでの飲酒を禁止しようという動きが出てきたから。ホームレスが集まって白昼おおっぴらに飲んでいる姿に、地元住民から苦情が出たそうなのだ。
日本は、そこらへんには寛容だ。酔って法に触れるようなことをしない限り、たいていの場所でアルコールが飲める。花見はもちろんのこと、天気のいい日の川べりで缶ビール、とか、昼下がりの鈍行列車でワンカップちびちび……とかいうのもセーフである。
アメリカでは、だれでも自由に使えるバーベキューの施設が公園の隅に備えてあったりするのだが、ここでさえ飲酒はご法度なのだ(どうしても飲みたければ、まえもって特別な申請をしないといけないらしい)。バーベキューしてもいいけどビールはダメってなにそれ、という感じだ。
アルコールに関しては、日本は寛容、アメリカは厳格――と思いきや、飲酒運転に関しては、その構図は逆転する。
日本では少しでもアルコールが検出されたらアウト、しかも同乗者も罰せられるそうだが、アメリカではある程度まで飲んで運転してもいい。
血中アルコール濃度が0.08パーセント未満
なら、お咎めなしなのだ。この数値は、全米どこでも同じ。
0.08パーセントというのはどのくらいなのかというと、体重が百ポンドちょっとの私なら、ビール三本あるいはワイン三杯くらいまでオーケー。体重が倍の人なら、アルコールも倍まで大丈夫という計算になる。ワイン六杯といえば、ボトル一本以上じゃないかと思うのだが、計算上はそこまで飲んで運転してもオーケーだし、実際に検査をして0.08パーセントを超えてなければいい、ということになるのだ。
飲んで運転してもいいとは怖ろしいはなしだが、超クルマ社会のアメリカでは、日本のように「血中アルコール濃度はゼロパーセントのみ」とはできないだろう。公共交通機関は発達していないし、代車システムもないに等しいのに、その一方で、ここはどう考えてもクルマでしか行かれませんね、というバーがたくさんあるのだから。せいぜい、Designated Driverを決めておくくらいだろうか。これは、指名打者ならぬ指名ドライバーのことで、複数で飲みに行く場合、ひとりだけ飲まない人を決めておいて、その人が帰りにクルマでみんなを送っていく、というもの。よく耳にする言葉ではあるが、実際、どのくらい励行されているのかはナゾである。
というわけで、飲酒運転に関しては決まりがゆるめのアメリカなのだが、未成年者の飲酒には厳しい。飲めるのは、二十一歳になってから。アルコールを未成年者に売った店は厳罰に処されるので、年齢チェックは念入りだ。四十をとっくに過ぎた私も、いまだにビールを買おうとするとスーパーのレジで「身分証明見せて」と言われることがある。十代に見える――わけはない。たしか三十二歳以下に見える人には必ずIDを求めること、という決まりがあるのだ。アジア人は若く見えがちだから、私もIDを見せろと言われるのだけれど、最近は、免許証をいかにも申し訳なさそうに返されることが多くなってきた。
アメリカのアルコールに関する州ごとの法律を調べてみると、なかなか興味深い。
飲酒に関する決まりがいちばんゆるいのは、ラスベガスがあるネバダ州。たいていの州にはアルコールを販売してはいけない時間(午前一時ごろから七時ごろまで)があるが、ネバダ州ではいつでもオーケー。前述したが、公共の場所でも飲んだって構わないわけで、ほとんど唯一の決まりは、年齢ぐらいだそう。
ガソリンスタンドに併設されたコンビニエンスストアにビールやワインが置いてあるのは以前から不思議な光景だと思っていたのだが、アリゾナでは、
ドライブスルーの酒屋
が許されているのだそうだ。「飲みながら運転していいよ」と言われているようなものではないか。
実際、ミシシッピー州では、血中アルコール濃度が0.08パーセントを超えない限り、飲みながらの運転が許されている。ビール片手にハンドルを握る――怖ろしい光景である。
オレゴンやその他の州では、レストランでオーダーして飲みきれなかったボトルワインを持ち帰ることができる。Cork'n Carry(コルクで栓して持って行く)と呼ばれる制度だそうで、持って帰れないから全部飲みきらなければと無理させないようにする一方、ワインをボトルでオーダーするのを奨励するために設けられた。しかしながら、オレゴンでは、口の開いたアルコール容器をクルマの中に入れていてはいけないという法律もある。したがって、飲み残しのワインボトルは、クルマのトランクに入れて持って帰ることになる。
インディアナ州は、アルコールに関してけっこう厳しい。未成年者は酒屋に足を踏み入れることもできない。この未成年者には赤ちゃんも含むという徹底ぶりだ。「今夜はお客さんが来るのにワインを買っておくのを忘れてしまったわ。これから買いに行きたいけれど、赤ちゃんがいるし、いったいどうしましょう」というような困った事態になりそうである。また、同州では、選挙投票日には投票所が閉まるまではアルコールを売ってはいけない、とのこと。なんだか真面目な州だ。
というわけで、アルコールに関しては、州ごとに決まりがいろいろとあって興味深い。アルコールをタブー視しがちな側面には、宗教的な背景に加え、アルコール中毒が大きな社会問題だという事情もあるだろう。
私個人としては、てっきりアメリカでは公共スペースでの飲酒は全面禁止と思っていたので、大丈夫なところがあるというのは意外な発見だった。来年の花見はいっちょうネバダ州まで繰り出して盛大な酒盛りでも……などと思うわけだが、はたしてネバダには日本のソメイヨシノはあるだろうか。
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