アメリカのおいしい生活
6月
15日月曜日

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  #145 学校が休み
 
 

 娘の学校があと一日で終わって夏休みに突入というところで、「中学部の生徒にH1N1インフルエンザの感染者が出ました」というニュースが飛び込んできた。幼稚園から高校まで、七三〇人ほどの生徒が通う学校である。
 感染が確認されたのは中学部のひとりだけだが、インフルエンザに似た症状を訴える子供が小学部にも多くいるとのこと。用心のため、翌日(年度の最終日)は小学部と中学部が休みになり、それぞれの卒業式がキャンセルされた。
 ウチの娘が通う幼稚園は閉鎖されることなく、予定通りスクールイヤー終了を祝う持ち寄りランチが開かれた。父親たち、母親たちも参加してのパーティーは、エッグサラダあり、豆とポークの煮込みあり、トマトとモツァレラチーズのサラダありと賑々しくとりおこなわれたが、ふと気がつけば、人数がいつもより少ない。
「Kくんがいないねえ。それから、AくんとYくんとEくんもいないわ」
 Eくんのお母さんは料理上手、特にお菓子作りがプロ級の腕前で、この持ち寄りパーティーには「カップケーキを作ってくるわ」と、つい数日前に話していたところだ。たしか前日のEくんはピンピンしていたし、パーティー欠席はもしかしてインフルエンザを懸念して……?
 Aくんも、前日は元気だった。やはりインフルを避けるために欠席したのだろうか。そういえば、Aくんのお父さんは、医者である。「新型は毒性が低い。あまり過剰に反応しないように」と言われているが、医者の息子が来ないとなると、なんだか不安な気持ちになる。
 パーティーは楽しかったのだが、ふと我に返ると、こんな時にこんなふうに大人数が集っちゃったりしてよかったのかな、と思うのであった。
 私が持ち寄りのために持って行ったのは、ネギと味噌を薄切りポークで巻いて焼いたもの。こんなときに豚肉なんて嫌われちゃうかしら、と思いながらも、材料をすでに用意してしまっていたし、急なことでほかにメニューが思いつかなかったしで、変更せずにネギ巻きポーク。フタを開けてみたら、パーティー参加者はだれもそんなことは気にしていないふうで、あっという間にポークはなくなったのでホッとした。
 
 というわけで、スクールイヤーの終わりはちょっとしたおまけつきだったのだが、それにしても、六月十二日に学校が終わって、それからずっと夏休みというのはどうなのだ。まだ、夏とも呼べないような長袖の日々だというのに。
 新学年が始まるのは九月の第一月曜の祝日レイバーデーが終わってから。今年はそのレイバーデーが九月七日と遅いから、新学年が始まるのも遅くなる。ほとんど三カ月近くが夏休みなのである。長すぎる。気が遠くなる。
 夏はこんなに長いこと休むし、しかも土曜は完全に休みだし、クリスマス休暇も春休みもあるし――アメリカの学校は休みすぎじゃないか? と思ったので調べてみたところ、アメリカの学校の

授業日数は年間180日

だとわかった。世界平均は200日だそうだ。いまの日本はといえば、ちょうど平均の200日ぐらい。
 六月上旬から夏休みが始まるアメリカの学校と日本の学校とが、二十日しか違わないのがなんとなく解せない気がする。が、日本は国民の祝日が多いし、冬休みも春休みも少しずつ長い。だから、それで少しずつ差が縮まっていくようなのだ。(アメリカでは、「日本の学校は243日」という数字が使われ、「日本の子供はアメリカの子たちもはるかにたくさん勉強している!」という文脈で語られることが多いのだが、これはどうやら週休二日制を導入する前の数字をいまだに用いているためらしい。土曜が休みになる以前だって半ドンだったのだから、土曜を「一日」とカウントしていたのはフェアではないと思うのだが)
 アメリカでも、その昔は授業日数がもっと多かったそうだ。一八四二年には、デトロイトの学校では260日、ニューヨークで245日、シカゴで240日。長い休みはなく、学校は一年中やっていたそうである。ただし、毎日の出席を義務付けられていなかったため、ひとり当たりの実際の出席日数は現在と変わらず180日ほどだった。
 そのうちに、出席率が悪いのになんで一年中学校を開けておく必要があるのか、という議論が湧き起こり、また、律儀に毎日出席している子たちにとっては授業日数が多すぎて疲れるだろうという意見もあって(勉強しすぎは体に毒、と真面目に信じられていた時代だ)、休みを増やすことになった。夏に長い休みを入れることにしたのは、換気の悪い教室では熱波など来ると耐え難いほどの暑さだったから。また、裕福な家庭には夏の暑い期間を避暑地に行って過ごす習慣があり、これに習ったからでもある。
 こうしてアメリカの学校は今の180日制に落ち着いた。しかし、「世界平均より少なくていいのか」という議論が常にある。授業時間ということで考えてみても、ほかの主だった先進国に比べて10パーセントほど少ないのだそうだ。
 一方では、「時間ばかり増やしたところで」という意見もある。スウェーデンでは、年間授業日数はアメリカよりも十日少ない170日。しかし、学力テストをすると、スウェーデンの学生たちの点数はアメリカよりも高いのだそうだ。フィンランドも授業時間数はアメリカよりも少ないのに、学力テストでは常に上位とのこと。
「教室で過ごす時間の量ではなくて、教育の質が大いに重要なのだ」
 と、南メイン大学の研究者たちによる教育レポートに書かれている。時間を増やすだけで学力アップに直結するならカンタンなことなのだが、教育の質を上げる、というのは、教師たちのトレーニングから始めなければならないわけで、一朝一夕にはいかないのである。 
 そんななか、オレゴンには、授業日数を

週五日から四日に

変えた学校がある。不景気によるコスト削減が、その理由。
 週四日制にするとその分授業時間数が減る、ということではないらしい。オレゴンでは最小限必要な授業時間というのが決められているから、カットした一日分が残りの四日に割り振られる。
 週五日のうち一日減らしたからといって、コストの五分の一がすぐさま削減できるというわけではないようだが、光熱費やスクールバスにかかる費用、カフェテリアの人件費などが抑えられる。ポートランドから南に一時間ほどのところにあるコルトンの高校(生徒数686)では、週四日制を始めて、年間総予算六百万ドルのうち十万ドルを節約したとのこと。別の地域では、三十万ドル節約したところもあるという。
 新聞記事によれば、四日制を導入するにあたってのいちばんの問題点は、チャイルドケアだそうだ。共働きの家では、学校が休みになった平日の一日、だれが子供を見るのかというのは頭が痛い問題だろう。また、高校生だけ四日制になって月曜から木曜までは学校が四時まで終わらないのに、下の子供の学校は五日制で毎日三時で終わってしまう、というような場合には、これまでのように上の子に下の子の面倒を見てもらうことができなくなってしまい、頭を抱える家庭が多いらしい。
 が、その点をクリアできれば(記事によれば、地域の家族同士で助け合って、チャイルドケアの問題をどうにかこうにか乗り切っているのだそうだ)、驚くべきことに学校週四日制はこれまでのところ、そう悪くないらしい。
 まず、学校がある日の授業時間が延びることで、前よりも時間をかけて実験や活動に取り組めるようになる(特に理科やアートの授業)。四日制を導入して学力テストのスコアが下がったということも、いまのところはないらしい。そして、教師の定着率が格段に上がったそうだ。
 この四日制を導入していたのは、いままで主に田舎の地域(学校から生徒の家が離れていて、スクールバスの燃料代がかさむ地域)に多かったが、今回の不況により、都市部でも導入を検討している学校が増えているとのこと。ポートランドの隣町でも検討され始めている。
 すでに四日制に慣れている地域の親はいまや肯定的に受け止めているようだが、検討が始まった都市部の親たちは「冗談じゃない」と否定的な反応である。
 半ドンながらも毎週土曜まで学校に行っていた世代の私にとっては、週四日制はまるで別世界だ。子供だったら大歓迎だろう。親となった今では、「一日でも多く学校に行っててくれー」という感じなのだが。
 景気が一日も早く回復することを、切に願う。が、不況下の苦肉の策で生まれた四日制が学力低下を招かずにうまく機能することがわかった場合、景気が回復した際にはどうなるのだろうか? 五日に戻るのか、それとも四日のままか。興味深く見守っていきたい。

 
 
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