オレゴン通信(連載エッセイ)

大石洋子 2020年12月27日

大石洋子 2020/12/27
#302 さよなら2020年

 12月某日
 なんだかんだといろいろあったが、どうやらアメリカの大統領は来年1月にトランプ氏からバイデン氏に代わるということに落ち着いたようである。
 選挙後のゴタゴタを日本で見ていた友人が「アメリカもたいしたことないってバレたね」とメールに書いてきて、ぐうの音も出なかった。
 私は選挙権もないしどちらにもあまり肩入れしないようにしよう、と思っていたが、次期大統領にほぼ確定したバイデン氏が、コロナのせいで生活に困っている人や中小企業などへの経済支援策について「Help is on the way」と言っているのをラジオで聞いて、涙が出そうになった。その言葉を耳にして、実は私たちは必死に両手を振り回して救助を待っているような状態にあったのだ、ということに気がついたというか。大統領という人は、こんなふうに国民に語りかけるものだったということを思い出したというか。
 どうやら逆転のチャンスはないと諦めたらしいトランプ氏は、今や塀の中にいるお友だちの恩赦に忙しいらしい。
 1月20日の大統領就任式が、ただひたすら待ち遠しい。
 
 12月某日
 わが家から5分のところにあるスーパーマーケットの薬売場に、「Covid-19の簡易抗体検査 $25」というサインを発見した。店員さんに聞いてみたら、薬局の奥の部屋で行われる検査だそうで、すぐに終わる、予約も要らないとのことだったので、さっそく受けてみることにした。
 指先にぷすっと針を刺して血液を採り、妊娠検査薬みたいなキットの小さな丸い窓にぽとぽと……。20分後に出た結果は、陰性。数週間以上前にコロナにかかったことを示すIgGという抗体と、つい最近の感染を示すIgMという抗体、両方の有無について調べたようなのだが、どちらも私の血液にはなかったそうである。ちなみに後者の抗体がある場合には、今現在も感染している可能性もあるためさらなる検査が勧められるそうなのだが、今回の私の場合はそんな必要もなく、あっさりとすべてが陰性であった。
 これまでの努力が実を結び、今まで一度もコロナに感染していないというのは喜ばしいことではある。が、実は私は3月と5月の初めに具合が悪くなったことがあった。熱を計ってもなんともないが、体がだるく熱っぽくて、それぞれ2日ぐらい寝込んだ。あれのどちらかが(あるいは両方が)コロナだったのではないか、私は軽症で済んでもう抗体があるのに違いない、と思い込んでいた……というか、妙な自信のようなものがあったので、陰性という結果はガッカリであった。今まで以上に気を引き締めて、感染予防に励まなければならない。
 そんなわけでちょっとガッカリな検査結果ではあったが、しかし、ここまで来たか、と感慨深いのであった。これまでは私たちにできることは何もなく、ただひたすらマスク着用とソーシャルディスタンシングと手洗いを励行するだけという感じだったが、ここへ来てワクチンができ、そして抗体検査もこんなに身近に、簡単に受けられるようになった。一歩前進という感じである。
 さて、お次はワクチン接種だ。ニューヨークタイムズによれば、私の順番はアメリカの中で2億6870万人目、オレゴン州の中では330万人目(人口420万人)、マルトノマ郡では81万人中、62万2千人目だそうである。タイムズのオンライン版に、年齢や重症化のリスクのあるなしを入力するとこんなふうに具体的な順番が出てくる記事があったのだ。100人に換算したら、私は75番目ぐらいということか。
 少し前にはアメリカ人の3分の1がワクチン接種したくないようだと言われていたが、その数は徐々に減り、今では2割ほどのようである。感染症対策トップのファウチ博士によれば、ウィルスの拡散を抑えるためには9割の人が免疫を獲得する必要がありそうだという。バイデン氏も現副大統領のペンス氏も公開でコロナワクチンの接種をしたが、もっと影響力のある人物が「俺がやったんだからみんなもやろうぜ!」と言わなくてはいけないのでは。
 1950年代半ば、ポリオ(小児麻痺)のワクチン接種に尻込みするティーンエイジャーに接種を呼びかけるために担ぎ出されたのは、エルヴィス・プレスリーだったそうだ。
 当時のエルヴィスに匹敵するような人気者は今のアメリカでは誰なのか。多様化が進んだ今では昔のような国民的スターというのはいなくなったから、エルヴィスほどに神通力を持つ有名人はいないのかもしれない。
「トランプは?」
 友人が、現大統領の名を挙げた。
 ああ、なるほど、彼を支持する層にはワクチン接種反対の人が多そうだし、直接働きかけられそうだ。エルヴィスと同じくらいの人気者なのだなどと誤解しないでもらいたいけれども、最後の最後に一肌脱いで「俺は感染したことがあるから抗体あると思うけど、いちおうワクチン打った。みんなもやってくれ!」と呼び掛けてくれたら、少しは見直すのだけれども。
 
 12月某日
 日本からアメリカへの小包郵便の取り扱いがストップしている。4月末からのことで、コロナの影響なのである。旅客用の飛行機に乗せて運んでいたのが、日米間の便が減ったからというのが理由らしい。
 あまり大きな声で不満を述べてはいけないから、こっそりと小声で言うのだけれども、9月に日本で発売されたヒデキの写真集が、そんなわけで足止めを食らっていて悲しいのであった。発売と同時に友人が買ってくれたので、郵便が再開するのを今か今かと待っているのである。
 この写真集は、HIDEKI FOREVER popという。その前に出された、若い時の写真を集めたHIDEKI FOREVER blueという写真集からのスピンオフ企画で、ヒデキの「ポップな一面にスポットライトを当てたビジュアルブック」だそうである。ポップなヒデキ。うわーん、早く見たいよう! 
 この写真集の出版を記念して、つい先日、広島のデパートで西城秀樹展が開催されたという。広島といえば、ヒデキが生まれ育った場所である。コロナ対策を万全にした妙齢のファンたちが、展覧会はもちろん、実家跡や母校のあたりをウロウロしたらしい。私も行きたかったよう!
 人気者が亡くなると、これまでは記念館を作るというのが偲び方の王道なのかなという気がしていたが、最近は、新たなテクノロジーのおかげで実に様々な形がある。公だけでなく私に広がったというか。ラジオ番組を作る人もいれば、ブログを書く人もいる。ツイッターでヒデキのクイズを毎週のようにアップしているファンの人たちもいるし、同じくツイッターで呟かれた、ヒデキの人柄が偲ばれるエピソードの数々をまとめている人もいる。たくさんあるエピソードの中のヒデキは、いつだって優しい気配りの人だ。思わず次々と読んでしまうのだけれど、全部読み終えちゃったら寂しいので、いつも途中でやめておく。
「ワイルドな17歳」というキャッチフレーズで1972年に登場したヒデキは、デビュー50周年が近い。今後も、イベントやら出版物やらでますます盛り上がっていくような予感がする。いや、盛り上げていこうというファンの意気込みが感じられると言うべきか。2021年も、ヒデキ熱は一向に収まりそうにないのであった。


著者プロフィール

大石洋子(おおいし・ようこ)
アメリカ在住のエッセイスト。上智大学文学部ドイツ文学科卒。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためにオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼くかたわら、本Boiled Eggs Onlineの連載と、ENGLISH JOURNAL(アルク)の「オレゴン12カ月」でオレゴンでの生活をつづる(ENGLISH JOURNALの連載は2020年3月号で終了)。

オレゴン州:
全米屈指の美しい景観を誇るアメリカ西海岸の州。IT、バイオテクノロジー、環境関連企業の成長が目覚ましい。ナイキなどのスポーツ企業も多い。州都はセイラム。最大の都市は人口約60万のポートランド。

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