やっぱり、ひろみちおにいさんはもういないんだなあ。
先日、友人が日本から遊びに来るにあたり、「日本からなにかリクエストない? 本とか食べ物とか」と訊いてくれたので、NHKの「おかあさんといっしょ」を録画してほしいと頼んだのだ。娘の日本語教育のためである。
体操のおにいさんが今年の春で交代したのは知っていたものの、もしかして交代まえの再放送分が録画できたのでは、などとうっすら期待していた。が、しかし、友人が持ってきてくれたビデオには、やっぱりひろみちおにいさんはもういなかった。がっかり。好みのタイプというわけでもないし、すんごいカッコいいというわけでもないけれど、ちょっとノーブルで、さっぱり淡白、邪魔にならない感じがよかったのに。
新しい体操の人は、よしひさおにいさん。丸顔で、どっこいしょ! という感じの顔立ち。すごく若そうだ。あみだにかぶった赤いサンバイザーで演出しようというワンパクぶりと、筋肉モリモリな腕とが、どうにも不釣り合いだ。いや、好きな人には、この童顔(ふう)とマッチョなボディーとのアンバランスがたまらん、ということなのかもしれないが。
子供番組に出ている大人は、どうしてこう
無理やり子供みたいな
格好をするのだろうか。
歌のしょうこおねえさんも、髪を小さい女の子みたいにふたつに結わったり、リボンをつけたりしている。普段からこういう髪型で街を歩いているなら別にとがめだてもしないけれど、もしそうだとしたら、相当不気味な大人である。親しみやすさを演出しようとしての髪型だと推察する。
「おかあさんといっしょ」ではないが、やはりNHKが放送している子供向けの音楽番組に、よく名まえの知られた歌手が出ているのを見たことがある。詳しくは知らないが、ソウルフルな歌声が若い人たちに人気の実力派、といったところだろうか。
この人も、けったいな服装をしていた。鳥をイメージしたのか、赤い羽根飾りふうのかぶりものに、赤や黄色のテープをいくつもたらしたようなコスチューム。彼女と一緒に出ている男も、巨人の星の花形満みたいな大きく波打った前髪(青っぽく染めてある)に色とりどりの毛糸をたらしたような服装。このふたりが、なんとも妙ちきりんな動きをして見せるのだ。
子供向けとなると、どうしてこんなに力が入ってしまうのだろう。素のままで出ることはできないのだろうか。本人たちがやりたくてやっている「扮装」だったら仕方がないけれど、「子供向けだし」と思って精いっぱいの工夫をこらしているのだとしたら、子供との距離がうまく測れていないのではなかろうか。
子供は、子供っぽい服装をした大人や、突飛な服装の人になつくわけではない。派手な服装は目を惹くだろうが、それも最初の数分のことだろう。「なにを着ているか」よりも、「なにをしてくれるのか」のほうが子供にとってはずっと大事だ。
芸のない芸人ほど、かぶりものやら着ぐるみやらを身につけて人前に出たがる。友人が録画してくれたビデオを見ていると、「そんな小細工をせずとも、子供らはアナタたちをちゃんと『体操を教えてくれるお兄さん』や『歌のうまいお姉さん』として親しみを覚えるから大丈夫だよ」と言ってあげたくなる。
ところで、少しまえに書いた、娘の学校のオークションが先日開催された。
このオークションは、学校の運営資金集めのための催し。あちこちの団体や商店などから商品、現金、商品券などの寄付を募り、それを競売にかけるという仕組みである。一家庭につき七十五ドルの寄付を集めるようノルマがあって、九月半ばから、私は頭を悩ませていたのだった。
結局、私が送った三十数通の寄付のお願いレターに応じてくれたのは、たったの一団体だけ。チルドレンズ・ミュージアムという子供向けの博物館が入場券を四枚寄付してくれた。合計二十四ドル。やはり世の中は、そう甘くはないらしい。
ノルマに達しなかった分の五十一ドルは、ウチの懐から出して補填した。そうするように学校側から言われたのだ。ちょっと悔しい。スピード違反で捕まって、ちゃんとしていれば払わなくてもよかった違反金を払ったときの気分に似ている。
オークションは土曜の五時から行われた。子供を連れて行ってはいけないイベントなので、ベビーシッターを雇った。子供の夕食どきにかかるわけだが、慣れないシッターさんが与える食事を、食べることにあまり貪欲でないウチの娘が口にするとも思えない。結局、オークションを途中で抜け出し、八時ごろに戻ってきて私たちが食べさせることに決めた。
会場は、ウィラメット川を隔てたポートランド東地区にあるメロディー・ボールルームという、普段は結婚式の披露宴などしているイベントホール。受付で番号(この番号はあとでオークションのときに必要になるらしい)のついたパンフレットを受け取り、クロークに自分でコートを掛けて、まずはバーへ。列に並んでいたら、大きなグラスになみなみと注がれたビールを手にした女性がすれ違いざまに「ビール、タダよ」と囁いていった。地元のブリュワリーが、ビールを無料で提供したのだそうだ。
人の流れにしたがって隣の部屋に入っていくと、迷路のように配されたテーブルの上に大小さまざまのバスケットがたくさん置かれていた。サイレント・オークションだ。テーブルの上に商品と一緒に置かれた用紙に落札希望価格を書き込むシステムである。
バスケットの中身はさまざま。おもちゃや本、キッチン用品や食材(野菜まであった)などの商品もあるが、多くは商品券。スーパーマーケット、ペット屋、アイスクリーム屋、リゾートの宿泊券、レストラン、スパ、洗車屋――なんでもありだ。それらをいろいろなテーマ(野球とかゴルフとかリラクゼーションとか料理とか、とにかくいろいろ)でくくって、バスケットに仕立ててある。言ってみれば、中身が見える福袋のようなものだ。
私が集めた寄付であるミュージアムの入場券は、「Exploring Washington Park」と名づけられたバスケットのなかに入っていた。ワシントンパークという公園のなかにあるミュージアムは、同じく公園内にある動物園や日本式庭園の入場券や、レストランや、なぜかペット屋の商品券と抱き合わせになっていた。
バスケットの傍らに置かれたそれぞれの用紙には、下限の金額というか競売のスターティングプライスがすでに書かれている。いくら競り売りとはいえ、五ドルとか十ドルとかの異常に安い金額からは始められないようになっているのだ。それと一緒に、バスケットの中身の本当の価値も記されている。百ドルの価値のバスケットに四十ドルのスターティングプライスがつけられていたりすると、このまま競り落とせたらお得だよねえ、というわけだが、そう考えるのはみな同じ。人気のバスケットはどんどん値が釣りあがっていき、ほとんど得とはいえないくらいになっている。
会場では、たくさんの人がドリンクを片手に生け花の作品でも鑑賞するみたいにゆっくりと歩きながら、テーブルの上に置かれたバスケットを眺めている。その場の雰囲気が生け花鑑賞ほどに落ち着いていないどころか熱気でむんむんなのは、そこに「お金」が渦巻いているからで、よく見ればどの人も、バスケットの中身と価値、そして競り値がいくらかを見比べて、「買いたいか」とか「得か」などをぐるぐる頭のなかで計算しているのである。
夫と私も、NBAのチケットとステーキ屋の食事券が入ったバスケットや、ポートランド・ビーバーズ(大リーグ、サンディエゴ・パドレスの傘下にあるトリプルAのチーム)のシーズンオープニングゲームのチケットとそのほか野球用品入りのバスケットに食指が動いたが、オークションの最後までいられない私たちは競売に参加できないことがわかり、断念した。
それにしても、不思議な気がするのだ。生徒の親たちも巻き込んであちこちの商店や団体からありとあらゆる寄付を募り、そうして手に入れた商品やギフト券などを競売にかけて――つまり値をどんどん釣り上げて――売りさばく。学校側は売り上げ金を学校運営に使えるわけだし、バスケットを競り落として商品を手にする参加者たちもうまくすれば欲しいものを安く手に入れられるわけで、四方八方万歳! ということのようなのだが……。うまいシステムのように見えて、ちょっと
阿漕なような気も
するのである。
オークションの最後までいないとなにも買えないことがわかった私たちは、タダのビールを一杯ずつ飲んで、熱気がたちこめる会場を後にした。後半は、プロのオークショネアーが出てきて、参加者たちが番号札を上げ下げする、本当のオークションが行われるとのことだった。ますます会場は熱くなったはずである。
後日、小耳に挟んだところによれば、その日の売り上げは三万一千ドルだったとのこと。学校側は、なんぞ新しい施設が作れるとかで、ほくほくなのだそうだ。
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