年末、クレジットカード会社からの請求書を見ていて驚いた。
十一月にカナダのバンクーバーに旅行したのだが、そのときに使った分すべてに三パーセントの手数料がかかっているのだ。四泊のホテル代、レストランでの食事、買い物――全部、三パーセント上乗せされている。
「これはなんですかっ」
すぐにカード会社に電話した。
「手数料です。外国でこのカードを使った場合、米ドルに換算しますので」
腕ぬきをはめた事務員さんが鉛筆なめなめ、ひとつひとつ算盤で計算するわけでもなし、コンピューターが勝手にカチャカチャッと数字をはじき出すんだろうに。去年の四月、日本でカードを使ったときにはなかったから、最近新しく徴収することにした手数料だろう。
「こんなもの聞いたことないけど」
「どこのカード会社もやってますよ」
電話の向こうのカスタマーサービス係は、木で鼻をくくったように答える。
「また新しく、客からお金を取る手段を思いついたってわけですねえ」
思わず嫌味のひとつも出ようというものだ。
最近のクレジットカード会社ときたら、新しいカードを作れ、作れと誘っておいて、いざメンバーになると、いろいろと理由をつけて、手数料だの罰則金だのを客からちまちまと巻き上げるのである。
頭にきたので、海外で使っても手数料がかからないクレジットカードを見つけ出してやる……と、鼻の穴を膨らませてコンピューターに向かっていたら、別のカード会社から電話がかかってきた。
「昨日、イスラエルで買い物しましたか?」
へ? イスラエル? そんなところは行ってもいないし、だいたいそのカードは年会費がかかるから近々キャンセルしようと思って使っていなかったのである。
「それでは、○○ドットコムと××ネットで買い物しましたか?」
どうやら、私の
クレジットカード番号が盗まれ、悪用
されているようなのだった。
そのカードは、ただちに使用停止。身に覚えのない分は、請求が来ても払う必要はありませんから、とのことだった。
カード自体を盗まれたわけではないので、よからぬ者が番号だけをどこかから入手したのだろう。泥棒があの手この手で他人のクレジットカードを使うという話は幾度となく見聞きしてきたが、まさか自分が犠牲者になるとは思ってもみなかった。
カード会社は泥棒対策専用のセクションを作って、ちょっとでも怪しい動きが見られると、すぐさま客に確認を取る。我が家にも、夫が海外の出張先でカードを使うと、「今日、メキシコシティーで買い物しましたか」などと電話がかかってきたことが何度もある。
専用の部門を作って人を雇っているくらいだから、クレジットカード会社は、いまや泥棒叩きに相当お金をかけているのだろうと推測する。そのコストが結局、手数料やら罰則金やらの名目で私たち客から吸い取られているのかと思うと、しばし忘れていた怒りが、またメラメラと燃え上がるのであった。
クリスマスからお正月にかけて、何度か友人夫婦と集まることになっていたのだが、毎回、メンバーのだれかが風邪をひいて中止になり、結局だれとも会わずに終わってしまった。
ウチの娘も、新年早々、咳ごほごほの洟ずるずる。どこにも出られず、図らずもビデオ三昧の年明けとなった。
どれも遅ればせながら見た映画ばかりだったが、「宇宙戦争」にはひっくり返った。
なんでトム・クルーズたちが乗った車だけが動いてるんだろう、とか、どうして宇宙人はトムには殺人光線を使わないわけ? などと気になりだすと止まらない。偶然も間一髪も、ここまで都合よく度重なると滑稽である。
普通、こういうパニック映画を見ていると、知恵を振り絞って困難を切り抜けていく主人公の姿に思わず「がんばれ!」と力が入るものだ。が、「宇宙戦争」では、いとも簡単に人々が殺されていくなか、トムとその家族だけがひょいひょい生き残れるのがあまりにも不自然なので、「なんでアンタらだけ無事なのよ」と冷めた目で見てしまう。そして、どんどん人が殺されるのを見ていると、「トムだけ生き残ればいいって問題でもなかろう」という気がしてくる。
こんな娯楽映画を見ているときにどうかと思うが、テロだの戦争だの自然災害だので大量に人が死んでいる現実を思うと、映画でまでこんなに人が死ぬのを見る必要もないかなあ、という気さえする。そう思わせるくらいに、「宇宙戦争」では人が無駄に死ぬ。そのあまりの人数に戦慄するというよりは、リアリティーがまるで感じられないから、だんだんどうでもよくなってくる。
ストーリーにのめり込めないうえに、主人公に感情移入できないのは、私がすれっからしで皮肉屋だからというだけではないはずだ。スピルバーグはいったいどうしちゃったのだろう。
「宇宙戦争」に続いて、翌日は、これまた遅ればせの「ラスト・サムライ」。トム・クルーズの顔は、半年くらい見たくない。
トムはかっこいいのでうっとり見てしまうが、ニッコリ微笑んだときには、思わず目を伏せてしまう。彼も四十を過ぎて、目の周りだの肌の感じだのが年相応にくたびれつつあるのに、ニカッと笑ったときの
三日月形に見える歯並びだけはきらりーん
と若々しいまま。そのギャップがなんとなく痛々しくて、彼が満面の笑みを浮かべると、なんだか戸惑ってしまうのである。
この先もっと年を取って、ますます顔がくたびれていっても、彼の笑ったときの口元だけはずっと青年のままなのだろうか。ふと、「不思議の国のアリス」に出てくるチェシャーキャット――ニヤニヤ笑いだけがいつまでも宙に浮かんでいる――が頭に浮かぶ。
このトム・クルーズ二本立ては、友人から借りたものだったのだが、DVDといえば、最近、Netflixという、宅配DVDサービスに加入してみた。
私が選んだのは、月々十五ドルで借り放題というサービス。一度に借りられるのは二本までで、返却したと同時に次のDVDが送られてくる。
これがとても便利なので、すっかり気に入った。言うことをちっとも聞かないお転婆二歳児を連れてビデオ屋にいく必要がなく、おまけに延滞料もかからない。DVDを返送するのも、あらかじめ用意されている返信用の封筒(郵便料金はDVD屋持ち)に入れて郵便ポストに入れるだけという手軽さだ。
さらにうれしいのは、セレクションが充実していること。その辺にあるDVDレンタル屋は、ハリウッド製の娯楽大作を豪華に取り揃えているけれど、インディペンデントものや外国映画、また古いアメリカの作品の扱いは少ない。このNetflixでは、まえからずっと探していた「アルカトラズからの脱出」(クリント・イーストウッドのなんとまあ若いこと!)がすぐに借りられて、本当に満足であった。
こんなシステムは、郵便代が安いアメリカならではなのだろうなあ、と思っていたら、日本にもあると知り、ちょっと驚いた。私が加入したのと同じ借り放題のサービスが二千円くらいだからアメリカよりもちょっと高めだが、まあ郵便代を考えると妥当な料金設定だろう。
子供ができてから、映画にはとんとご無沙汰で、なんとなく自分のなかの引き出しがどんどん軽くなる気がして焦っていたものだが、これでなんとか世の中についていけそうである(映画館で新作を見るわけにはいかないので、まだ半歩遅れではあるけれど)。
そんなわけで、今年はたくさん映画を見よう、と心に誓った。いくら借り放題とはいえ、「宇宙戦争」みたいなのをうっかり借りないようにしよう、とも。
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