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過日、Boiled Eggs Onlineを運営する地域で激しい落雷があった。インターネットとの接続が遮断され、更新不能に陥った出来事をふまえ、第2回対談は始まる。
●締め切りが延びると嬉しい
加藤 この前は、雷によるアクシデントでたいへんでしたね、村上さん。
村上 焦りまくりました。じつは昨日も。
加藤 雷が?
村上 鳴ってた。さっき話に出た18歳についてのチェックがあって、ぼくは早々に終えて電源切りたかったんですよ。
三浦 でも18歳だって言い張ってるしー(笑)。
村上 ほかにも人称のわからない会話などがあって、確認しなくちゃならない。それをないがしろにしてアップするわけにはいかないから、気もそぞろで。頭のこの辺で雷が鳴ってる。
加藤 それはまずいですねえ(笑)。
村上 編集作業を終えるや、アップしましたと一方的に通告して、いきなり電源切って寝ちゃいました。
三浦 もう寝ますってメールに書いてあった(笑)。
村上 こういう自然災害や機械の故障などはスリリングといえばスリリングだけど、一時的なことだし、作家の側からすれば毎週が締め切りですから、それを守り通すということはたいへんなことですよね。
三浦 先週末、村上さんから「雷でだめになったんですよー」という電話があったときに、私はすごく嬉しそうな声を出してたらしくって、ちょうど家族が隣にいたんだけど、「なんかいいことあったの」と聞かれて、「うん。まあね」なんて言っちゃいましたよ。
村上 あのときはまちがいなく、「わーい」って言ってた。
三浦 「ええー、そうなんですか、たいへんですねー」なんて、ウキウキ言っちゃいましたよ。嬉しかったですね、あのときは……いやいや、あわわわ。
村上 更新がどれだけ遅れるかわからなかったので、加藤さんにも電話したし、合木こずえさんにも電話したけど、あれだけ露骨に喜んでたのは三浦しをんだけだった。
加藤 なんか村上さんの声が震えてるんです。ぼくは最初、悲しみで震えてるかと思ったんですよね。よくよく後で考えてみたら、喜びと期待に震えてるんじゃないかという気がしてきて。新しいコンピュータを買うために……。
三浦 雷を呼んだんですよ。絶対そうですよ。すごく嬉しそうでしたもん、次の、復旧しましたよというメールは。
加藤 嬉々としてましたね。メールに色艶があったら、ピカピカ光ってるような(笑)。
三浦 やった! って感じでしたよねえ(笑)。
●三浦さん、もてるでしょう?
加藤 ぼく、子供の頃に思い出があって、おふくろとぼくが共有していたコンパクトカメラがあったんです。カメラに興味をもっていた頃で、ぼくはそれがコンパクトなもので、いやなんですね。ある晩、そのカメラを壊したんです。
三浦 わざと? ガシャーン、しまった(笑)。
加藤 おふくろに、このカメラ壊れてるよと報告に行ったときのあの気持ちが、村上さんの電話をとりながらよみがえりましたね(笑)。いっそ、日記に書こうかと(笑)。
三浦 そういうの、ありますよ(笑)。今現在、私も、いまだにPHSなんですけど、これが全然壊れないんですよー。0円で買ったものなんだけど、もう5年ぐらい壊れなくて、1回も機種変更してなくって、同じ基本料金でいまはもっといいサービスが受けられるのに、機種が古いばっかりに、通話のみみたいな感じなんです。早く壊れないかなーと思うんだけど、やっぱり逆に愛着も湧いて、わざと落とすことができずに、ひたすら待ってるんですけどねえ(笑)。
加藤 ぼくは独身の頃は自分自身を納得させれば買い物ができたんですが、このごろはそうもいかなくなっていて……。
三浦 こう、財布の紐が引き締められている?
加藤 かみさんも仕事をもって稼いでいるので、ぼくも稼いでいるわけだから、買いたいものを買えばいいんですよ。
三浦 でもなんか目が気になる(笑)。
加藤 そうそう、気になっていて……。
三浦 いいではないですか。
加藤 今日も、ここで食事をするというのも、いや仕事なんだよと、仕事で食べてくるんだからねと……(笑)。
三浦 執拗に自分に言い聞かせ(笑)。そうでしたか……でも逆に、いいですよ、そうやって一緒に暮らしてくれる人がいれば。それだけで。
加藤 なんか急にしみじみとしてしまった(笑)。でも、三浦さん、もてるでしょう?
三浦 もてないですよ。
加藤 ぼくが大学の同期だったら、一緒に飲みに行こうって絶対誘うと思うな。
三浦 飲み要員としてならいいんですけどね。
加藤 いやいや。
三浦 ガハハなんつって、いくらでも飲みますからね。
加藤 でも、まだ18歳なんだから。
三浦 そうですよねえ。まだ18歳なんだもん、付き合うとかなんとか、早すぎますよ。
●男にも焦る時期がある
三浦 でもここだけの話、父親が「もう○○歳か」みたいに言うんですよ。うるさいんですよー、すごく。
加藤 なんでそんなこと言うんです?
三浦 わかんないんです。なんでですかね。うるさいなー、なんでそんなこと言うのと言っても、「別にー。でも、もう○○歳か」みたいな(笑)。
加藤 まだ、○○歳でしょう。
三浦 そうですよね。失礼しちゃいますよ。
加藤 それは社会を知らないと思う。
三浦 ああ、絶対そうですよ。
加藤 お父さん、すいません!(笑)。
三浦 いいんです、言ってください。彼は自分の若い頃の尺度のままで生きている気がしてならないんですけどねえ。
加藤 うちのかみさんだって、ぼくより一つ下ですけど、○○歳の頃は全然そんな状態じゃなかったと思うな。
三浦 ですよね。よかった。
加藤 それはちょっとだめです。いけません(笑)。
三浦 やはり家を出ないのがいけないんじゃないかと思うんです。
加藤 家を出たいんですか?
三浦 私は出たくないんです。
加藤 そのほうがいいですよ。出ないほうが。
三浦 面倒くさいですからね、いろいろと(笑)。
加藤 ぼくも一人暮らしが長かったから、ほんと面倒くさいですよ。男にも、焦る時期ってあるんです。たとえば、食事をする女の子がいても、結婚する相手はいないと。でも、それは世の中当たり前じゃないですか。でもそれを思い悩む時期があって、たとえば洗濯機で洗いすぎちゃって、赤い色かなんかがついちゃったりすると、ガクーンと気が滅入って(笑)……。
三浦 こんなんでいいのかー、みたいに。
加藤 捨て鉢になって、バカヤローとかって。
三浦 洗濯機に当たってみたり(笑)。
加藤 それでぼくは、バイクに乗り始めたんですよ。
三浦 そのうっぷんを晴らすために。
加藤 バイクのなにがいいって、たとえば土曜日の早朝4時に起きて、箱根に行って一日中一人で走り回っているわけです。一人でやっていることに対して、大義名分がちゃんと立つわけですよ。
三浦 ああ。
加藤 俺はいま風だぜ。
三浦 俺はいま自由な風だ(笑)。
加藤 自由な男で、孤独を愛するライダーだぜー(笑)。
三浦 なるほどー(笑)。
加藤 よくよく後になって気がつくと、さらにそれで縁遠くなっているという。
三浦 そうかもしれないですねえ(笑)。
加藤 俺はばかですねえ。
三浦 しまった! って。
加藤 ぼくには甘い期待があって、バイクに乗ったいい男の後ろに女の子を乗せる、これはすばらしいと思ったの。女の子は乗ってくれないんです。
三浦 こわいですもんねえ。では、作戦はもろくも崩れ……。
加藤 ヘルメットをもう一個買ったりとか、けっこう投資は大きかったんです。
三浦 ちょっと聞いていいですか。それは乗せるあてがあって買ったんですか。
加藤 たとえばスキーをやろうというときにスキーの道具を一通り揃えるのと同じように、バイクに乗るときには道具の中にもう一つヘルメットがあるという(笑)。……ぼくはほんとそういう悲しい思い出しかないんですよ。○○歳の頃は。
三浦 いいじゃないですか。かっこよくバイクを走らせていたんですから。女なんか乗っけちゃダメですよ。
加藤 ターゲットとしては20代のOLを乗せるはずだったんですが、女子高生しか乗せられなくて。
三浦 いーじゃないですか、女子高生!
加藤 いやそれで、なにがかっこ悪かったかというと、速度違反で捕まったんですよ(笑)。
三浦 (爆笑)どうして、ちゃんと落ちがついてるんですか。すごすごって感じですねえ。
加藤 20代ってそんなもんなんですね。
三浦 報われないッスねえ。
加藤 いや、それがいつかは……ネタになるんですね。これで、1回書ける。ぼくが最後に乗ったのはイタリア製のドカッティというバイクで、1台クルマを買える値段なんです。100万以上かけて改造して乗ってたんですが、それがいつかネタになるかもしれない。いや、それをネタにするために作家になったという(笑)。
三浦 ただでは転ばない(笑)。
●オタクは人生!?
三浦 私もなにかそういう趣味がほしいですねえ。
加藤 趣味はないんですか。
三浦 ないですねえ。
加藤 コスプレは趣味じゃないんですか。
三浦 趣味ではないですねえ。
加藤 きょうはコスプレですね(笑)。
三浦 きょうは「中華街コスプレ」ではありますが、これは趣味というわけではないし。
加藤 オタクなんですか(笑)。
三浦 まあオタクですね。
村上 オタクは趣味じゃないんですか。
三浦 うん、オタクは趣味とはちがいますね。それはもう、否応なくそうなってしまうというだけのことで。
加藤 オタクは人生ですか。
三浦 ふふふ。そうなりたくはないんですけど、否応なくそうなってしまいますねえ。
加藤 オタクっていうのは、傍から言われるだけであって、自分からオタクになろうとしてなるものではないですよ。なにかひとつの好きなものに関わっているうちに、そうなるってことですから。
三浦 誰でもなにかしらそういうものはあるはずですからね。
加藤 ないほうがかえって変だと思いますよ。オタクのほうが人生は豊かだと思うんですよ。
三浦 それは絶対そうでしょうね。
村上 あのー、ぼくはいまだにオタクの定義がわからないんですが。
三浦 どういうんでしょう。私の中では勝手に、定義としてはあんまり身なりに気を使わないってことになってますけど。
加藤 三浦さんは気を使ってますよね。
三浦 それは、外に出るときは、です。
加藤 家ではジャージですか。
三浦 はい。ジャージよりひどいものを着ていますよ。
村上 それがオタクの定義なんですか?
三浦 ふふふ。いやいやちょっと語弊がありますけど。
加藤 それは生活上の外観的特徴ですよね。
村上 昔の言葉で言ったらなんなんでしょう。
加藤 マニア、ではなにかちがいますね。
三浦 なにか、趣味人としての余裕をなくした人たちではないでしょうかね。
加藤 ぼくもほっとくとオタクになりますよ。ぼくは小説を書くまでは中国を全然意識していなかったんです。ところが、いざ書くことになって素材に対してのめりこんでゆく急降下ぶりを見ると。
三浦 空恐ろしいばかりの急降下ぶりですか。
加藤 垂直に落下してゆくあの感じ。これはぼくはオタクなんだなと。
三浦 加藤さんはあの『厨師流浪』は中国に行かれないときに書いたんですか。
加藤 それまでに東京、横浜の華僑の人たちと付き合いがあって、どこの国に行っても、チャイナタウンが気になってしょうがなかったんです。小説を最終的にアップする前に中国本土に行って、最後の確認をしてきたんです。装幀の菊地さんにはお話ししたんですが、自分が書いていたもの、地面の色とか空の色とかが、そのまま現実にズバーっと広がったときには、涙が出ましたね。それまでに、ぼくに教えてくれた人の情報が正しかったということなんだと思います。
三浦 でも、それとやっぱり、文章というか想像力というか、そういうものの勝利だなあということは、読んでいてすごく感じますね。
加藤 ありがとうございます。三浦さんの第1作はどうなんですか。やはり自伝的な小説なんですか。
三浦 うーん、そういうふうに言われることが多いんですけど、どうなんですかねえ。就職のところはそうかもしれないけど、家族とかはちがいますし。就職系のところと家族系のところとはまったくちがいますねえ。その二つの世界は。
加藤 心の運動神経がはずんでる。この人はすごいなあと思いましたよ。「しおり」を毎週なぜ読んでいるんだろうと漠然と思っていたのが、『格闘する者に○』を買って電車の中で読み始めたときに、ようやくここでピントが合ったなと思った。体のフットワークはわからないけど……。
三浦 にぶいです(笑)。
加藤 (笑)なにかすくすくと育って、すごく健康的な精神をもっている人だなと。それが読みながら気持ちよかったです。
三浦 いやいや、そう言っていただけると、なんかもう、はずかしいッスね。
(2000.9.24/横浜・海南飯店にて収録) ■
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