| ●純文学→幻想文学→高村薫
加藤 ぼく、三浦さんは獅子文六に似ていると思うんです。顔が、でなく(笑)。
三浦 顔だったらどうしようかと(笑)。読んだことないんですが、文章とかが……?
加藤 いま読んでも文章は古くなく新鮮ですけど、心の持ち方というか、対象に対する接し方がすごく似ているんです。獅子文六さんは大衆小説で、風俗を描くわけですが、ふつうは時が経つとそういうものは恥ずかしい。それがないんですよ。
三浦 へえー。
加藤 風俗を描いても、低くならない。それが似てるなあと思いますね。
三浦 ありがとうございます。バイト先が古本屋さんですから、探して読んでみましょう。
加藤 三浦さんはどういう小説を読んでこられたんですか。
三浦 日本の純文学系でしたね。そして、幻想文学へ行って、で、いまは高村薫と。
加藤 高村薫気に入ってますよね。
三浦 まわりじゅうから、いいかげんもうやめろって言われてるんです。
加藤 あのマイブームはなんなんですか(笑)。
三浦 わかんないですが、マイブームになるとすごいんですよ(笑)。
加藤 高村さんのどこがいいですか。
三浦 硬質な文章ですかねえ。それで、泣かせるんですよね。そこが……幻想文学もそうだけど、自分では絶対できそうもないものに惹かれるんですよねえ。好みとできることとがいつも違うんです。
加藤 いまから裁判官や検察官、刑事になろうという夢はないんですか(笑)。
三浦 刑事は運動神経がだめなので無理ですが、検事は司法試験受けるかーという気になってますよ(笑)。検事になったら地方に赴任することになるから、いまから荷物を少なくなんて考えてるんですよ。毎日そんなことしか考えてないんです。
加藤 18歳ですからね。
三浦 夢見がちなお年頃だから。……あとは、お祭りの報告とかを読むのが好きなんです。
加藤 なんですか、そのお祭りの報告ってのは(笑)。町内会で出してるんですか(笑)。
三浦 民俗学系であるじゃないですか。こんなお祭り、儀式があるなんて。そういうのを読むのがけっこう好きなんです。
加藤 日本に限らず、BBCのドキュメンタリーなどを見たりもするんですか。
三浦 そういうのは見ないですね。「ふるさとの伝承」は見ますけど(笑)。
●気づいたときから男色
加藤 ずいぶん同性愛に注目しているようですが、どうなのですか。大学の卒論もそっち方面でしたよね。
三浦 そうです。
加藤 やっぱり男色はいいですか(笑)。
三浦 気がついたときから男色なんです(笑)。いま出ている女の人が書いて女の人が読む同性愛の小説・漫画を自覚的に読むようになったのは、フェミニズム系とのからみですね。ただ自分が好きっていうのがもとからあって、ずっと読んではいたんですけど。
加藤 少女漫画って直接的に描いたものも多いし、直接的に描かなくとも、それふうの風情を漂わせることって多いじゃないですか。そういうところから入っていったのかなと、ぼくは思っていたのですが。
三浦 もちろん少女漫画でもそういうのも読んでましたけど。
加藤 男の側からすると、あれってよくわからないんですよ。
三浦 そういうふうにおっしゃる男の人が多いのはすごくよくわかるし、それも当然だと思うんですけど、私は卒論がヤクザ映画で、ああいうヤクザ映画でも時代劇でもなんでもそうだけど、そういう色合いって必ずあるわけじゃないですか。ハリウッド映画でも、ゲイの人権とかなんとか言う前から、いわゆる「仲のいいダチ」みたいな描写はいっぱいあったわけですよね。ただそれを同性愛的なものとは認めず、「男の友情」というふうに言ってたわけじゃないですか。でも、私から見たらそれは友情というものからはやや逸脱している関係としか思えなくって、そういうのを描く、そしてそういうものを描いているのに、それから目をそらすというのが、どういうことなのかというのが、たいへん興味のあることなんです。
加藤 時代小説がまさにそうですよね。池波正太郎さんの鬼平にしても梅安にしても、男の世界というのはみんなそうですよ。ただ、少女漫画に描かれている男同士の感情というのは、まああれはメルヘンだからいいんだけど、いただけないっていうか、わからないですね(笑)。
三浦 いまや古典となってしまった『風と木の詩』(竹宮恵子・白泉社)もそうですけど、あのころに描かれていたものは、お話として楽しめるけど、やっぱりまだ草創期のものって感じがします。いまは描写とか関係のあり方とかもすごく進化してきていると思うんです。いまは限られた人しか読んでいないし、いまのままだったらそのままだと思いますけど、じつは人間関係を描く上で、重要なポイントが隠されているんじゃないかなあと思うんですよねえ。
加藤 女性がなぜ、男性のそういう関係とおぼしきものに対して興味を持つのかということに、ぼくは興味があるんですね。
三浦 どうして女なのに男同士のそういう関係に惹かれるのかというと、気がついたときから男色ですから(笑)それを言葉で説明するのはむずかしいんですけど、いつでも女の人は男の人と性的な関係を回避して付き合うことはできなくって、そのことにとても空しさを感じる人が女の人の中にはいるんだと思うんですね。そういう気分がどこかに流れているような気がします。
加藤 池波正太郎さんが、男同士の、男色の関係というのは、さまざまな段階があると言うんですね。それは肉体的な関係を伴ったものだけがそうではないんだと。作品にも限りなく友情に近いものから肉体的なものまで書き分けていらっしゃる。ぼくは亡くなられた池波先生に悪いんだけど、先生にはそういう心の機微があったのではないかという気がしてしょうがないんですよ。よく理解されていたのではないかと。
三浦 厳密に言えば、江戸時代までの「男色」とは区別して考えるべき事柄ですが、いまの同性愛ものというのは性的な関係に焦点を当てているものではあるんですけど、そのテーマを追求していくと、いずれは池波先生が言っていたみたいな、性的なものじゃないんだけど結ばれているという関係に行くんじゃないかという気がするんですよね。そういう表現ももっと成熟してくるんじゃないかなあと思います。
●親友A君の話
加藤 この頃、カミングアウトという言葉がごくふつうに使われるようになってきましたが、でもぼくは、言わぬが花というのもあるんじゃないかなと思うんですよ。差別被差別の関係で言わないということではなくて、お互いの空気感を保つために言わないっていうことがあるんじゃないか。
三浦 それはもちろん、そうでしょうね。
加藤 ぼくの親友で、A君というのがいるんです。いい男で、しかも体が引き締まってる(笑)。とても固い仕事をしてるんですけど、ヤクザ映画で筋の通った健さんタイプを地で行っている男なんですよ。
三浦 A君、もう結婚してるんですか。
加藤 してないんですよ!(笑)。
三浦 そうなんですか! むふふふふ。
加藤 A君、いいですよ。
三浦 偽装結婚もOKですから、私。
加藤 A君、お茶とかもやるんですよ。
三浦 どうしたらいいんでしょう、そんな男。
加藤 着物も着るんです。着物も似合う。
三浦 A君、もうなりきってますね。理想的ですね。
加藤 吊しの洋服着ないんです。ハンフリー・ボガートしちゃってるんですよ。
三浦 それは惚れざるを得ないですよ。
加藤 A君はそんなふうにスタイリストなんだけれども、どこか支えてあげたいと思わせるところがある。
三浦 加藤さん、ためらわずに、A君の胸に飛び込むべきですよ!
加藤 大学の時がいちばん付き合い深くて、ぼくのところに泊まったりして、一緒に飯食ったりしていたんですけど、なんか、こいつと一生暮らしてもいいな、なんて……。
村上 いまカミングアウトしてるんじゃないんですか。
加藤 まずいなあ!(笑)。かみさんいるのに(笑)。
三浦 いいじゃないですか。
加藤 A君に惚れる女が多いんです。二人でパーティに行くと、必ず女からぼくのところに電話がかかってくる。「Aさんてどんな方?」なんて。ぼくは毎度のことなので、対処の仕方がわかっていて、予定とるんだったらぼくを通してください。
三浦 A君のマネージャー?(笑)。
加藤 最近も、知的ないい女がいたのに、Aは振ったんです。
三浦 もう加藤さんに心を捧げてるんですよ。
加藤 Aが言うには、「ぼくは、重荷を背負い込むのはいやなんだよ」。
三浦 (爆笑。身をよじって喜ぶ)
加藤 それがまた、女性にとってはたまらないらしくて。
三浦 まあAさん、すてきー、みたいな(笑)。
加藤 信じられないですね。なんで、きみ、そうなの。もしかして、女の子が嫌いで、男の子が大好きなのって……。
三浦 加藤さんも思いきったこと聞きますねえ。こりゃ、墓穴を掘る以外のなにものでもないですよ。
加藤 でも、彼は違うって言うんですよ。じゃあ、きみは結婚する気はあるのって聞くと、「俺は田舎があるからいつか田舎に帰るんだよ。嫁さん連れて帰んなきゃいけないんだよ」と言う。じゃあ、なんであんないい女を振るのかと問いつめると、彼はそこで言葉を濁すんですねえ。おたがい付き合い長いのに、そこだけわからない。踏み込めないところがある。
三浦 なんでしょうねえ。ニヤリ。なかなか複雑そうな人ですねえ。
加藤 いや、単純だと思うんですけど。
三浦 ただ自分の欲求に正直なだけかもしれないですね(笑)。
加藤 うらやましいなと思ってねえ。ぼくはこの頃全然女性にもてなくなって。お年寄りの女性には意外と人気が出てきたんですが(笑)。
三浦 いいことじゃないですか(笑)。人格にますます深みが出てきたからこそなんでは。
加藤 「あらあ、すいませんね、毎回毎回クッキーなど持ってきていただいて」なんて。
三浦 クッキーなんて持ってっちゃいけませんよー(笑)。もうおばあさんのハートをがっちりキャッチですか。まずいですねえ。
加藤 Aなんて、一回でも女の子としゃべっちゃうと、その子が不幸になるなんて言うんですよ。やなやつですよねー(笑)。
三浦 やなやつだけど(笑)、なんかわかる気がしますよね。
加藤 やめましょう、この話は。小説にこの人物を書いたら、絶対……。
三浦 やなやつですよねえ(笑)。
加藤 やなやつを通り越して、村上さんに、「加藤さん、リアリティがない」って言われちゃう(笑)。
三浦 「いないですよ、こんな人」って言われちゃいますよねえ(笑)。
加藤 「やめてください。そういうわざとらしい登場人物は」なんて(笑)。
三浦 でも、少女漫画にはなりますよ。……Aさん、幸せになれるといいですね。幸せになれるかどうかの鍵は、加藤さんが握ってるんですよ。いいですねえ。うらやましいですよ。ふふふ。
*
……対談の熱気を冷ますため窓を開けると、外の通りには夜の帳がかかっていた。新人作家の二人は店を出て、加藤氏の案内で商売繁盛の神様が祭られた関帝廟へ。その後、場所をグランドホテルのバーに移し、歓談は夜の更けるまで続くのであった。
(2000.9.24/横浜・海南飯店にて収録) ■
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