バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

5月
14日月曜日

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 scene11: スキップ

 

 新宿・甲州街道沿いのそば処・増田屋はランチタイムを終え、ほっと息をついているようだった。百席以上もの大きな店だ。
 座敷席に近いテーブルで、ぼくはそば湯を飲んでいる。できるだけ時間をかけて、ゆっくりゆっくりと。何も無駄に時間を潰しているわけではない。かけそばを半分食べたあたりで、ある「対象」に目が奪われ、観察を続けているのだ。
 視線の先は斜め前の席だった。
 そこには、四人掛けのテーブルを一人用に変えて、食事を続ける巨漢の男がいる。年齢は三十過ぎ、体重は百キロ以上あるだろう。ビッグサイズのウグイス色のTシャツを着て、額の汗をぬぐいながら、そばを食べていた。すでに空にした二人前のざるそばをテーブルの真ん中に重ね、新たに運ばれてきたてんぷらの盛り合わせに手を伸ばしている。その盛り合わせも、二、三人で分け合うほどの量だ。
 腕と口だけを動かして、男はただ黙々と食べ続けている。
 それほど太った男を見るのは久しぶりだった。街中ですれ違うことはあっても、飲食店で大量に物を食べるところを見るのは、ぼくの記憶にほとんどなかった。それは新鮮な出会いであり、ちょっとした衝撃だった。
 右手側には、二杯目のビールジョッキが残り半分の状態になって、飲み干されるのを待っている。Tシャツの袖にぴったりくっついた二の腕は、丸太棒かボンレスハムのようだ。大きな手に操られた割り箸はまったく休むことがない。食べ物だけに視線を向け、他には何も興味がない様子だった。
 ツルツルとスピーディにそばを食し、ビールをゴクゴク飲み、次々とてんぷらを胃の中に落とす。ジョッキをテーブルに置くと同時に、空いた方の手でエビのてんぷらをつまみ上げ、尻尾だけを残して、またビールといった具合だ。長い断食の果てに、そば屋にたどりついたみたいに、ただひたすら自分の空腹を満たしている。けして上品な姿とはいえなかったけれども、ほっぺたを赤くしたベビーフェイスと、丸顔を目立たせる短髪が少年のようで、「給食」の時間なんかを懐かしく思い出してしまった。
 ふと、ぼくの思いは「重力」に及んでしまう。ニュートンがもし、リンゴの替わりに、この巨体がジャンプする様を目の当たりにしたら、どんな発見をしただろう。
 テーブルの上の料理を片づけると同時に、男はさっと席を離れ、足どり軽くレジに向かった。「足どり軽く」bb驚くことに、体を上下に揺らして、二、三歩スキップをしたのだ! 不器用な動作の中に、おいしいものを食べ終えた満足感があふれている。
 自動ドアに立つ象のような背中を見て、どうしたわけか「羨望の気持ち」がぼくの中にむくむくと膨らんできた。                               

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