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scene13:
虹男
狭い十字路を人とクルマがひっきりなしに行き交っている。新宿・伊勢丹百貨店の本館と新館の間だ。人はショッピングに、クルマはパーキング場に向かい、ガードマンたちの吹く警笛が、ジャングルに響きわたる野鳥の鳴き声のようだ。半径五十メートル以内には、歩行者天国があり、映画館があり、電器量販店があり、大型書店があり、数え切れないほどの飲食店がある。
その場所で、男の子が声をあげて泣いている。新館の入り口から少し外れたところだ。
ブルージーンズに白のブラウス姿の母親は、もう手段がないといった表情で男の子の脇にしゃがみ込んでいた。もはや全ての言葉をかけ尽くした感じで、ただ時間が解決するのを待っている。
けたたましいエンジン音と野鳥の鳴き声が、男の子の声をかき消し、ビルに張り付いた巨大なデジタル時計が歩行者たちを急ぎ足にしていた。誰もが分刻みの行動の中で、男の子を黙殺していく。そのことが、彼には余計に腹立たしいようで、泣き声はどんどん大きくなっていった。
親子から二、三メートル離れて、ぼくは誰かとの待ち合わせを装っている。映画の上映まで少し時間があって、見てないフリして男の子をずっと見ているのだ。
そろそろ移動しようと思ったときだった。花束を持ち、ピンクとイエローの原色系の服を着た派手な男が近づいてきた。七色に染めたアフロパーマのかつらは異様に大きく、抱きかかえるように右肩で支えた花束も尋常なサイズではない。よく見ると、洋服のいたるところに、造花のひまわりをつけている。常人の想像をはるかに超えたルックスは、高層ビルの屋上からでも目につくほどだった。
「レインボーマン」だ。久しぶりの再会だった。
新宿・歌舞伎町を根城にした彼は、かつて新聞報道されたほどの有名人で、そうした姿で新宿通りを自転車で疾走する様が多くの人に目撃されていた。「登場」はいまから二十年前bb七色の髪と衣装から、ぼくら小学生は彼のことを「レインボーマン」と呼んでいたのだ。
その“正義の味方”が、泣きじゃくる男の子の前に立った。いまはどうしたわけか、愛車(自転車)を捨て、皺だらけの顔と腹回りの贅肉を目立たせている。二十年の歳月は、新宿の街にも彼の体にも等しく吹き抜けたのだろう。
レインボーマンは何も言わずに、花束から一輪のバラの花を抜き取った。真一文字に口を結び、強い意思にあふれた表情で背筋をぴっと伸ばしている。そうして、バラの花を紳士然と母親に差し出した。逃げ場のない彼女は、しゃがんだまま、恐る恐る右手を伸ばした。
野鳥が変わらずに騒ぎ立てている。
雨がピタリと止まるみたいに男の子は泣き止み、雑踏に消えるレインボーマンの背中を、ぼくと一緒に見送った。
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