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scene15:
オーダー
傘から垂れた水滴がリノリウムの床にたまっている。外はどしゃぶりの雨だ。
昼食時、店の中はまるで戦場だった。厨房の中華鍋から立ち上がる白い煙は硝煙のようで、冷房の効きの悪い店内は、ガスの炎と人の熱気で蒸し上がりそうだ。
厨房では二人の料理人が額に汗をにじませながら、繰り返されるオーダーと格闘している。ラーメン、チャーハン、肉ニラ炒め、焼きそば、餃子、半ライス……中華屋のありきたりのメニューがランチセットの名の下に複雑に組み合わさっていく。
「こっち、まだかよぉ!」
満席状態の狭苦しい空間に、奥のカウンター席から男の野太い声が響いた。
「はーい、すいませーん」
ウェイトレスのイメージとはほど遠い、エプロン姿のおばさんがとっさに答えた。片手にチャーハンと伝票を持ち、声の主の背中側を通り抜ける。オーダーを聞き取り、料理を運び、レジ打つ作業を、彼女がひとりでこなしているようだ。それも、もう限界に近い。
「カウンター六番、先出して!」
厨房の男が、刻んだキャベツを中華鍋に投げ入れながら言った。彼は店主らしく、混み合う店内の様子を横目でチェックしては、おばさんに指図している。
「こっちが先に頼んだのによぉ」
声のトーンは下がったものの、男は全員に訴えかける感じで続けた。ぼくを含め、誰もが聞こえないフリをする。
油が熱せられた鍋に注がれる音、ご飯や野菜が炒められる音のほか、物音は際だって少ない。三つある四人掛けテーブルはすべて相席のようで、ランチタイムを楽しむ会話はどこにもなかった。
なるべく短い時間のうちに胃袋をいっぱいにして、戦場を抜け出していく。その気持ちをいっそう煽る勢いで、また店のドアが開く。
「いらっしゃいませー……ほらぁ、六番にスープ。テーブル三がオーダーだよ」
店主の声におばさんは返事もせず、考える余裕など全くない表情で動き続けている。鬼軍曹と新米兵みたいだ。
ぼくの前にラーメンがやってきた頃、怒号の男が食事を終え、レジの前に立った。肩で風切る歩き方で、不快感をむき出しにしている。
「ありがとうございました」と、おばさんのつぶやき声。
すると店主は調理の手を止め、厨房をさっと出て、彼女から伝票を奪い取った。
「どうも申し訳ありませんでした」
調理帽を脱ぎ、彼はゆっくりと頭を下げた。
「……おいしかったよ。ごちそうさん」
男は右のほっぺたをさすりながら、照れくさそうに言った。
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