バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

7月
23日月曜日

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 scene16: 東の空

 

 アスファルトがカラカラに乾いた七月の夕暮れ。商店街から住宅地に通じる小さな交差点で、二人の若者とひとりの老人が空を見上げていた。
「あれ、おかしいよな」
「絶対、飛行機じゃないぜ。あんな動きしないもん」
「……UFOですかねぇ」
 敬語で話しかけてきた老人に、若者のひとりが振り向いて、したり顔で頷いた。
 ぼくと肩を並べて信号待ちする男女が、彼らの会話に気づき、上空に視線を向ける。
 暮れなずむ東の空に、オレンジ色の光がポツンと浮かんでいた。球形のスクリーンにマチ針で穴を空け、そこから一筋の光が漏れている感じだ。あまりにもか細く、まばたきする間に消え入ってしまいそうだ。
「あれは、お星様よぉ」
 ぼくの隣りで、スーパーの買い物袋を下げた年輩の女性が、三人をあざ笑う調子で言った。背筋をまっすぐに伸ばした老人は、彼女を一瞥しただけで、何も言葉を返さずに再び空を見上げた。
 オレンジの光はまったく動かないのだが、目を凝らすと、明るさが微妙に変化しているようだった。交差点に止まる者のほとんどが、その一点を見つめている。
「さっき、動いたんですよ」と、若者は誰に向けるともなく言った。
「そうそう、斜めの方向にな」
 すかさず、もうひとりの若者がフォローする。洗濯がうまくいかなかったみたいに、彼のポロシャツの襟は、内側にクルリと曲がっていた。
 第一発見者の三人は、背後の視線と光の行方の両方を気にしている。
 しかし、光はビルの避雷針からわずかに左の位置のまま、微動だにしなかった。
 信号が青に変わる。
「星よ、星よ、お星様なの」
 年輩の女性は、そう言い捨てて、誰よりも早く横断歩道を渡り始めた。「黙って私についてきなさい」といった堂々とした背中で。
 あごを上げて、視線を固定させた者が数人だけ同じ場所に残った。
「ぜったい、また、動きますよ」
 老人が静かに言った。
 まるで未確認飛行物体と秘密の交信をしたかのように、横顔にうっすらと笑みが浮かんでいる。
 何度か信号が変わると、群青色のスクリーンはオレンジの光を残して、いつもどおりの夜空になった。                             

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