バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

8月20日月曜日

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 scene18: 車両故障

 

 プラットホームの密度がすっかり濃くなった。五人ずつが背中合わせに座るベンチは満席で、ヴィトンのバッグを膝に乗せた女性は呆然と線路を見ている。
 喫煙所には三人の男性がいる。グレーの夏用スーツとアロハシャツと緑色のポロシャツだ。三者三様の背格好とヘアスタイルで、タバコの銘柄も別々のようだ。いらだちを隠せない顔で、アロハシャツの男が吸い殻入れにタバコを投げ捨てた。
 ホームの端にはワンカップ酒を持った作業着姿の酔っぱらいが立っていて、エスカレーターから上がってくる人に何か言いた気な目をしている。赤黒い顔で体を左右に揺らしていた。
 電車が遅れているのだ。
 原因は二つ前の駅で発生した車両故障だった。そのことを告げるアナウンスが、数分おきにホームに流れている。
 密度がさらに濃くなるなか、子供の手を引く母親が、バタバタと音をたててエスカレーターを駆け上がってきた。横幅のある大きな体で、ひどく困惑した表情が目的地に急ぐことを告げている。
 ホームの人込みに気づくと、彼女は足を止めた。繰り返されるアナウンスで、すぐに事の次第を把握して、そばにいた駅員に声をかけた。
「新宿に急いでいるんですけどぉ」
「到着まではもう少しかかりそうです。お急ぎでしたら、新大久保駅から山手線をご利用いただいた方が……」
 酔っぱらいが三人をじっと見つめ、そこから少し離れた位置で、ぼくは彼らのことを眺めている。
 新大久保駅は、歩いて五分ほどの距離だ。駅員の言葉を聞いた何人かが急ぎ足で階段を下っていく。母親は腕時計に視線を落とすだけで、その場から動こうとしなかったが、アロハシャツの男が小走りでぼくの横を通り過ぎていくと、彼女も子供の背中を押しながら階段を降り始めた。
「たいへんお待たせいたしました。ただいま電車はお隣りの東中野駅を出ました」
 電車の発着を知らせる電光掲示板にオレンジ色が点り、何事もなかったかのような平坦なアナウンスがホームに流れた。
「ほらぁ、お母ちゃん、電車が来るってよぉぉ!」
 階段を見下ろして、酔っぱらいが野太い声で叫んだ。電車が来ても、彼は乗車のそぶりを見せなかった。                        

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