バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

9月10日月曜日

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 scene19: 静寂

 

 連日報道された新宿・歌舞伎町のビル火災の現場は、自宅から歩いて十五分の場所だ。四十四人もの死者を出したビルの素顔が見たくて、日曜日の午後、ぼくは歌舞伎町に向かった。
 ちょうど、新宿駅の近くで買い物があったので、東口から靖国通りの歌舞伎町交差点を渡った。そこが歌舞伎町一番街の入り口だ。幅五メートルほどの道の両側いっぱいに、ゲームセンターと飲食店と風俗店が軒を連ねて営業している。
 現場は、コマ劇場を目指してまっすぐ歩いた、その通り沿いだった。
 重々しい曇り空の下、背の高いたくさんの脚立が遠くから見えた。地上から生え出した「ジャックと豆の木」みたいに、カメラマンがてっぺんで立ったり座ったりしている。彼らはなるべく高い場所から、ビニールシートで閉ざされた現場検証の様子を覗き見していた。
 付近の路上では、たくさんのテレビカメラと野次馬たちが入り乱れている。ニュースキャスターがマイクを持って、神妙な顔つきでカメラに語りかけていた。
 ふとぼくは、異次元空間に放り込まれた気分になった。
 お祭り騒ぎの人混みなのに、辺りが妙に静まりかえっているのだ。まるで、人気のない湖畔の静けさだ。叫ぶ者も笑う者も、おしゃべりする者もなく、野次馬はただじっとビルを見つめている。カメラマンたちも無言でレンズを覗いているだけで、無駄な物音を何ひとつたてない。銃を構え、息を殺して密林を進軍する兵士たちbb腕に腕章をつけた彼らの姿は、ちょうどそんな感じだった。
 ニュース映像のとおり、ビルは壁面を黒くした程度に留まり、見る者たちに懸命に訴えていた。「自分は四十四人もの命を奪った加害者ではなく、あくまでも炎に焼かれた犠牲者なのだ」と。ビルにも感情があって、焼け崩れなかったことを誇っているみたいに、ぼくには思えた。
 それから、道を迂回して、映画館に向かった。
 すると、途中の路地で、一台のテレビカメラがビルの裏口の方向を撮影していた。群衆からひとり離れた場所で、雑居ビルの五、六十センチの隙間から別の映像を撮っている。カメラの先では、消防隊と警察官のブルーの制服が動いていた。
 ほんの五、六秒だけ、ぼくが立ち止まったとき、一匹の野良猫が隙間から抜け出てきた。尻尾を立て、スキップするような足取りで、カメラマンの足下から雑踏に消えていく。テープを回していた彼は、一、二歩後ずさっただけで、けしてカメラのアングルを変えることはなかった。
 再び歩き出し、歌舞伎町の喧噪が目の前に現れてくると、生温かい風がにわかに煤のにおいを運んできた。                       

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