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scene20:
雨宿り
ねずみ色の雲が空に張り付いて、早朝から断続的に雨が降り続いている。二、三十分降っては止み、また一、二時間して降り出すことの繰り返し。スコールばりの雨が、てんぷら油みたいにべランダに跳ね返っていた。
午後になって、ようやく空が明るくなってきたので傘を持たずに外出した。電車の窓に映る一戸建ての屋根は、わずかな陽射しを受けて、ニスを塗ったように光っている。
ショッピングモール内のCDショップで買い物して、帰り道、駅に続く大通りを歩いていると、雲行きが怪しくなった。
強い風とともに雨粒がひとつふたつ落ちてきて、それからもう“一気”だった。右に左に小刻みに葉を揺らす街路樹。バチバチと音をたてるアスファルト――
一変した光景にとまどいながら、ぼくは五十メートル先の“中野サンプラザ”に駆け込んだ。コンサートホールと結婚式場を併設した建物だ。
「水不足はどうなったんですかねぇ」
「毎日こんなに降っちゃ、水はもう余ってるでしょう」
結婚披露宴を終えたばかりの中年のグループが、出口で足止めをくっていた。それぞれの手に引き出物を持ち、全員が同じ目線で雨を見ている。
五分もしないうちに、赤い絨毯の敷かれた建物の中は、洋服を濡らした者と外に出られない者とが混在した。
「こりゃあ、しばらくムリだなぁ」
誰かが大きな声でそう言ったとたん、母親におんぶされた赤ちゃんが泣き出した。母親は、「よしよし」とあやしながら自動ドアを出て、雨に濡れないぎりぎりの場所に立った。
母子の前を、輪郭を曖昧にしたクルマが駆け抜けていき、ガラス一枚を隔てた泣き声は雨脚以上に勢いを増した。
少しして、透明のビニール傘を持った女性が同じように自動ドアから外へ出ていった。薄手のジャンパーに紺色のタイトスカートを履いて、髪をポニーテールにしている。おそらく、ホールの関係者だろう。
空を見上げてから、彼女は赤ちゃんを気にかけた様子で、自分と同じ年くらいの母親に傘を手渡そうとした。泣き声しか届いてこなかったが、身ぶり手ぶりで二人のやり取りが分かる。
やがて、母親は小さな傘を広げて、雨の鋪道に出て行った。
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