バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

10月8日月曜日

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 scene21: 苦笑

 

 西向きのガラス窓から黄色い陽射しが差し込み、カフェの中はゆったりした時間が流れている。
 いつものテーブルで、ぼくは短篇の推敲をしていた。コーヒーカップはすでに空っぽで、グラスの水を減らしながら、気になる単語や言い回しのチェックをしている。
「お前が悪いんじゃないかっ!」
 男の怒声に、カフェの空気が凍りついた。
 顔を上げると同時に、窓際の席に座る中年カップルが目に止まった。
 髪をオールバックにした痩せ型の男が、真っ赤な顔で相手をにらみつけている。まともに目が合う位置のため、あわてて視線を原稿に戻した。
「自分のやったこと、考えてみろよぉ!!」
 いっそう大きな声が店に響くと、他の客の会話がピタリと止まった。ぼくはまるで自分が怒られているような気分になる。
「なんで、あたしが悪いのよぉ」
 しゃがれ声の女性が、男に劣らない迫力で反撃した。
 顔を伏せたまま、恐る恐る上目づかいで覗き見ると、贅肉たっぷりの体がこちらに背中を向けていた。街のどこにでもいる中年太りのおばさんらしい。
「あたしが何したって言うのよぉ?」
「お前がなぁ、全部悪いんだよ。みんなを巻き込んでるんだろがぁっ!」
 ブラインドを震わすほどの声で、二人は人目を憚らずに続ける。
 ぼくは別世界の住人を装い、店の中を見回してみた。原稿に集中できず、じっとしているのが辛い。
 背の高いウェイターが、「何でもない」という顔でキャッシャーの前に立ち、黒い文字盤の壁時計が平然と秒針を動かしている。
 少しの沈黙のあと、テーブルをもひっくり返す勢いで、男は空のイスを蹴り上げたが、女性は微動だにしなかった。
 店内がいっそう静まり返る。
 男は大股でぼくの横を通り過ぎていくと、スラックスのポケットに手を突っ込んだまま、店の扉を足で押し開けた。
 置いてきぼりをくった女性に、水差しを持ったウェイターが近づいていく。
「……なんなのよぉ!」
 上擦った声で彼女は言ったあと、テーブルをドンと叩いた。
 ウェイターは号砲に従う兵隊になって足を止め、ぼくのグラスに水を注いだ。苦笑いを浮かべて、ぼくらは顔を見合わせた。                        

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