バイマンスリー/
新世代作家の心象風景

1月
8日月曜日

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 scene4: 夜の駐車場

 

 植え込みまで、あと数センチしかない。
「ストーップ!」
 かけ声と同時に、白のセダンはしゃっくりみたいな動きで停止し、それからほんの少しだけ前進すると、またぎこちないバックを始めた。ヘビが何かをゆっくり飲み込むのに似た慎重なやり方だ。
「ストーップ! ハンドルを右に切って! 右に、右に!」
 白髪の老人がウィンドウから顔を出し、バックミラーを凝視している。クルマの後ろで大きな声を上げているのは息子だろうか――口ヒゲをたくわえた格幅のいい体で、ナビゲートを続けている。
 レンタルビデオ店の駐車場で、ちょうど夜中の十二時を過ぎた頃だ。
 青と赤のネオン看板の下で、ぼくは誰かを待つふりをしながら、そのクルマの動きを見守っていた。「見守っている」といえば聞こえはいいが、ただ興味本位で「覗き見している」のだ。
「ストーップ! ストップ! ストーップゥ!」
 バンパーが植え込みに鈍く突き刺さった。
 深夜の住宅街に響きわたる声で、男は同じ言葉を繰り返し、太い体をよじりながらクルマと緑の間を抜けて、運転席までやってきた。スパルタ教官に捕まった老人は「もうわたしにはできません」という表情で、フロントガラスを見つめたまま。
 ほとんど空の状態の駐車場には、彼らを遮るものはない。寒風の中、教習終了のチャイムはまだならないようだった。街灯の黄色い光がボンネットと停止線の白をぼんやりと照らしつけ、ビデオを返しに来る若者が、ときどき急ぎ足で横を過ぎるだけだ。
 免許を取ったばかりの父親が、息子に車庫入れをひっそりと習う光景――それがどうしたわけか、ぼくにはレンタル店に並ぶ新作ビデオよりも気になってしかたなかった。理由は、折しも前の日に、スクリーンで観た映画のワンシーンに「登場人物」が重なったせいだろう。
 やさしい陽光がアスファルトを撫でる、アメリカの郊外の住宅地。補助輪を外した自転車に乗る男の子とそれを手伝う父親がいる。息子が恐る恐るペダルを漕ぐと、父は荷台に置いた手をそっと離し、左右によろめきながら前進していく自転車を見送った。物語のキーになるささやかなエピソードだった。
 駐車場の老人も、いまは教官となった息子に、ずっと昔に自転車の乗り方を教えたかもしれない。ふと、そんなことを考えた。いや、ブレーキのかけ方だけではなく、キャッチボールの方法、釣り糸の垂らし方なんかも教えたにちがいない。
 何も知らない幼い子供に自分の世界を伝え、たくさんの季節とともに歳を重ね、やがて息子から未知のことを教わるというのはどんな気持ちだろう。
 年老いてから新しい物事を学ぶことは、おそらく他人が考える以上に難しいことだ。ましてや自分の子供を手本にするなんて、照れくささとプライドがテキストブックを閉じたがるにちがいない。
 運転席の老人には、きっと何よりも苦痛な時間だろう――と、そこまで思い巡らせた想像は、実は外れていたようだった。ぼくの覗き行為が見つからないうちに、駐停車は成功し、老人はうれしそうにクルマを出た。邪気のないその笑い顔は、教えられることが楽しくてしかたないという少年の表情にぼくには見えた。                    

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