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scene6:
路地の雪
「もし雪が赤かったら……」という想像に、降り積もる雪に会うたびに囚われる。幼い頃からずっと。たとえば、スキー場のゲレンデや北海道の原野が真っ赤な世界なのだ。そしていつの頃からかきまって、ぼくはこんなふうに考え足すようになった。
「もし雪が赤かったら、きっと血は白いはずだ」
一月の終わり、東京は慣れない化粧をした。競馬場の芝にも、山手線の屋根にも、駐輪中の自転車にも、等しく同じ量の雪が積もり、路上のお金を探すみたいに、道行く人は足下を見て慎重に歩いた。
大雪は夜に雨に変わり、朝までに都会の塵を掃除した。いつもはその逆なのに(昼の雨が夜に雪に変わる)、慣れない化粧をすぐに洗い落とす思春期の女の子みたいでおかしかった。
そのメイクの最中bb街全体に真白いファンデーションが塗られた夕方のことだ。
雪の中を歩きたい気持ちになり、大通りと並行する狭い路地に足を向けた。そこはスーパーに行く近道で、たいした買い物もないのに、大きな傘をさして真新しい雪を踏みしめた。
黒い影がちらほら。近所の幼稚園児だろう。子供が三人、頭にスキー帽をかぶり、レインコートに手袋という防寒スタイルで一面の雪と戯れていた。ジャンプしたり走ったり、丸めた雪を投げたり、グレーのアスファルトの上では考えられないはしゃぎようで、道を塞いでいた。右に左に、前に後ろに……遠くから見ると、壊れたゼンマイ仕掛けのおもちゃが行き止まりの空間でもがいているみたいだった。
恐る恐る電信柱の近くを通り、スーパーの入り口に向かう。そうして、ものの十五分ほどで、来た道を戻る。
「まだ、子供たちは騒いでいるんだろうな」と思いつつ、一方通行の標識を折れて、路地に出た。ところが予想に反して、三人の男の子は行儀よく横一列に並び、歩行者に背を向けていた。壁際に盛り上がった雪めがけて、いっせいに立ち小便をしていたのだ。
「うわっ、黄色いなぁ」
「字書いてんだぁ、オレ」
「すっげぇ、湯気出てるよー」
誰に向かってしゃべるともなく、三人が三人、思い思いの言葉を発していた。
小さな背中ごしにゆらゆら立ち上がる湯気、それにレモンみぞれになった雪も覗き見えた。
もし雪が赤かったら……そのときふと、例の想像に囚われた。真っ赤な雪原で、子供たちが赤い玉をぶつけ合う。そうして、何かの拍子にひとりがケガをして出血する。その血は透き通るように白く、赤い雪にじんわりと溶けていく。
そう、たとえ雪が赤く、大人が部屋の中で怯えていようと、子供たちは雪合戦を続け、立ち小便をするだろう。
路地にすっかり陽が落ちた頃、誰も見ていないことを確かめて、内緒でぼくも試してみた。溶けていく小便の色は見えず、雪は白くも赤くもなかった。
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