今月のゆでかげん(受賞作家 競作エッセイ)

お題:新年の挨拶 黒瀬陽
2019年1月21日

来月のお題:謎
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お題:新年の挨拶/黒瀬陽 2019年1月21日
猪突のご挨拶


「亥年 あけましておめでとうございます」――広島市安佐動物公園の入場門のクロサイのモニュメントの前に、そう書かれたボードが置かれていた。
 2018年、私は年男だったが、念願の小説家デビューを果たしたわけで、戌年はめぐまれた一年だったと言えよう。犬とは毎日ふれあっているが、街で生まれた私は新年の干支を直接目にしたことはなかった。
 チケットを買って入場門をくぐると、ビッグサンダーマウンテンみたいなサル山が迎えてくれた。あとで調べたらサルではなくヒヒ山らしい。キリンよりシマウマより、まず釘づけになったのは「ヒト」の檻だった。フェンスのプレートには「霊長目(サル目)ヒト科 ヒト」とあり、次のような説明がつづいている。
「長い距離を直立二足歩行出来る唯一の哺乳類である。基本的には温和であるが主義主張によっては好戦的になり、同種間で殺し合いを行なうこともある。大脳が発達し、高い知能を有するため言語等を用いて協力したり、自由に使える上肢を用いて道具等を製作することができる。また環境を自分に適したものに改造することにより地球上の広い範囲に分布している。年中繁殖が可能で、社会的に協力した子育てが出来る。国連によると2017年には約75億頭生息している」
 ニコニコと檻に入っていく子供をフェンス越しに撮影する親子連れのすがたはシュールだった。このような試みは大阪の天王寺動物園などでもやっているようだ。動物のいなくなった檻を埋めるための苦肉の策との説もある。
 さらに進むと10キロの米を地面に落としたような音がドスンと響く。二頭の象がならんで糞を垂れていた。鼻で自分の糞をツンツンとつつき、「ウンコ食うつもりじゃ」あたりから男の子の声が飛ぶ。そういえば、コロ助も子犬のころよく食糞していたが、いつの間にかおさまった。アフリカゾウの巨大な尻を見ながら、愛犬の成長に目を細めていると、またドスンと祝砲が鳴る。
 アジアの動物ゾーンでは、ホンドタヌキとニッポンアナグマが小屋で仲間同士、身を寄せあって丸まっていた。寒いのだろうか、ホンドギツネにいたっては気配すらない(穴のなか?)。アフリカの動物が元気に活動しているというのに情けない……。
 振りむくと、記念写真用の顔出しパネルがあった。森のなかで木こりの親子が丸太に腰かけ、狐や狸たちと戯れているイラストだった。「干支の動物と記念撮影」の文字があるが、十二支に狐や狸がいただろうか? 子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥……指を折っていると思い出した。私は新年の干支を撮影するために動物園にやって来たのだ。
 今年の主役は歯みがきでもしているのか、しきりにフェンスに牙を擦りつけていた。2004年生まれのトリノは、三つ年上のソルトと九つ下のヒトミという二頭のメスとハーレムで暮らしている。プレートの説明によれば、野生の猪の長寿記録は14歳とあるから、ずいぶんとおじいさんのようである。しかし足腰は健康そのもので、カメラを構えると右へ左へ軽快な足どりで行き来する。


安佐動物公園のイノシシ

 本当はうり坊にお目にかかりたかったが、近隣の動物園にそんなものは見当たらなかった。だが、代わりにライオンの子供を拝むことができた。
 ライオン舎には二頭のメスがいるだけだったが、ほどなく飼育員さんが三頭の子ライオンを放してくれた。9月に生まれたオスの双子と、10月に生まれたメスの子供は、トイプードルのコロ助よりも小さく愛らしかった。下の女の子はまだ毛が白く、おぼつかない足どりで段差をトコトコと歩く。となりのケージからは父親の雄叫びが響いていた。……おっかないので帰ることにした。
 帰り道、ポッカサッポロの自販機で好物のプリンシェイクを見つけた。かつて私はプリンシェイクを大人買いして実験を試みたことがある(「シェイク、プリンシェイク」←こちら)。夏が終わりすっかり見かけなくなったと思ったら、いつのまにかリニューアルしていた。コーヒーゼリーとともに「JELEETS」というシリーズに入り、流行りのボトル缶になっていた。
 以前は「5回ふって」と書いてあったが、今度は「Shake 7 times」になっている。特許出願中の二層ゼリー製法のゆえか、振ってみると、たしかにこれまでより重く手応えがある。プリンというよりゼリー感が強く、私好みのなめらかさにするには10回以上ふる必要があった。いっぽう、広口ボトルなので飲みやすく、カラメルがビターになっていた。中身をのぞけるようになったのは、嬉しいようなさみしいような。
 ともあれ2019年、私もリニューアルして心機一転、創作活動に猪突猛進する心づもりである。どうぞみなさま、ご贔屓のほどよろしくお願いいたします!

著者プロフィール

近況:
今年もコロ助とお稲荷様に初詣に行き、おみくじを引くと「吉」だった。 昨年は「末吉」だったので持ち直したが、一昨年も「吉」で、長らく 「大吉」を見ていない。昔は「大吉」を連発していたような気がするが、 神社によって「大吉」の割合は違うのだろうか?

黒瀬陽(くろせ・よう)
1982年、広島市生まれ。市内の小・中・高校を経て、早稲田大学人間科学部卒業後、東京大学大学院修士課程修了。2017年、『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』(受賞時の『クルンテープマハナコーン(ry』を改題)で第20回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。2018年6月、早川書房より刊行された同作品で作家デビュー。

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