今月のゆでかげん(受賞作家 競作エッセイ)

お題:デビュー 大石大
2019年10月15日

来月のお題:深酒
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お題:デビュー/大石大 2019年10月15日
作家デビューのためのブックリスト


 初めて小説を投稿したのは二〇〇九年、あるエンタメ系新人賞に送った。その次は二〇一〇年にライトノベルの新人賞。いずれも一次選考で落とされた。
 特にラノベの新人賞で一次を通らなかったのはショックだった。その賞は全体の五割近い作品を二次へ通過させていたのだ。面白いと信じて投稿した小説が、たった二倍の競争率を勝ち抜くことすらできなかった。このままでは新人賞受賞なんて夢のまた夢だ、と途方に暮れた。
 そこで頼ったのがハウツー本だった。書店に行くと、小説の書き方を教えてくれる本が並んでいた。その中から役に立ちそうな本を読んで勉強した。様々なテクニックを学ぶことで、徐々に作品の質が向上し、新人賞受賞までこぎつけることができた。
 今回は、今まで読んできた数十冊のハウツー本の中から、特に学ぶ事が多かった本を紹介したい。面白い小説が書けずに悩んでいる、かつての僕と同じ境遇の人たちに、少しでも役立ててもらえれば幸いである。
 
1.『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』大沢在昌(角川文庫)
 
 著者が作家志望者の前で行った小説の書き方講座をまとめた一冊。キャラクターやプロットの作り方、地の文や会話文の書き方といった基本的な事柄から、小説に必要な「トゲ」という、簡単には会得できない深い部分まで丁寧に説明してくれる。
 僕はこの本の元となった小説講座を受講していた。毎月出版社で講義を受講し、課題作を提出してダメ出しを受け続けることで、小説の書き方を学んでいった。他の読者とは本書との関わり方が違うので、僕が「お薦めです」と言うのはフェアではないかもしれない。だけど、やはり客観的に見ても、この本には小説を書く上で心がけるべきことが網羅されていると思うし、ある程度書き慣れている人にとっても参考になることがあるはずだ。未だに本書を読み返すが、そのたびに新しい発見がある。
 
2.『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』ブレイク・スナイダー著/菊池淳子訳(フィルムアート社)
 
 ハリウッド映画の脚本家が脚本の書き方を解説する本書は、「長編が書けない! どうしても途中で話の進め方がわからなくなる!」という僕の悩みを見事に解消してくれた。
 ハリウッド映画のプロットは理論化が進み、物語の進行パターンがほとんど決まっている。その理論を説明する本は多数あるが、特にわかりやすかったのが本書だった。
 たとえば一一〇ページの脚本を書く場合、最初の一〇ページで主人公の日常を描き、一二ページ目に日常が非日常に変わるきっかけとなる出来事を起こす。それから一〇ページを使ってその出来事に対する主人公の反応を見せて、二十五ページ目でいよいよ主人公が非日常の世界に足を踏み入れる瞬間を書く……。といった具合に、どうやって物語を展開させていくべきかを、プロローグからクライマックスまで懇切丁寧に説明してくれるのだ。この理論を学ぶことによって、長編が書けないという悩みから解放された。
 この理論に沿って書けば必ず物語が面白くなるわけではないし、常にこの法則を完璧に実行する必要があるとも思わない。ただ、一つの型を身につけるのは間違いなく武器になる。型を熟知した上であえてずらすこともできるし、どう話を進めればいいかわからない時にすがりつくための命綱として使うこともできる。
 
3.『ストーリー・ジーニアス 脳を刺激し、心に響かせる物語の創り方』リサ・クロン著/府川由美恵訳(フィルムアート社)

 ハリウッド式の脚本術とは違うアプローチでプロットの作り方を指南した本。
 本書は、まず主人公の内面を考えることの重要性を説く。小説が始まる時点での主人公の内面と、小説を通して内面をどう変化させるかを決める。そして、主人公の内面に影響を与えるストーリーを考え、話を展開させていく。
 ハリウッド式脚本術は、はっきりした方程式が用意されている一方、この本はあくまで主人公の内面の変化に奉仕したプロット作りを行うことを強調する。僕が小説のプロットを作る際は、いつも両者の内容を参考にして考えている。
 ただ、この本は少し内容が難しい。執筆の経験が浅い人より、何作も書いたことがあるけどなかなか面白い小説にならない、と悩んでいる人に向いていると思う。
 
4.『おかしな二人 岡嶋二人盛衰記』井上夢人(講談社文庫)
 
 一九八〇年代に活躍したコンビ作家「岡嶋二人」の結成から解散に至るまでを、コンビの一人だった著者が語ったノンフィクション作品。
 息の合った二人の心が徐々に離れていく過程も読みどころなのだが、作家志望者としては彼らの小説作法に目を留めるべきだ。たとえば本書では、二人が筆力向上のためにどんなトレーニングをしたのかが紹介されている。さらに、いくつかの作品を題材にして、二人がアイディアをどのように発展させて小説を作り上げていったのかが書かれている。作家が創作の裏側をここまで克明に語ってくれる例は他にないのではないかと思う。岡嶋二人はミステリー作家なので、特にミステリーを書きたい作家志望者には参考になるはずだ。
 
5.『努力しないで作家になる方法』鯨統一郎著(光文社文庫)
 
 この本を読めば、誰でも楽して作家になれる! ということではもちろんない。
 これは小説だ。伊留香総一郎という、著者をモデルにした主人公が作家デビューを果たすまでの、十七年間の悪戦苦闘の日々を書いた物語だ。
 本書には、アイディアノートのまとめ方、主人公(=著者)が実践している小説作法など、創作のヒントがちりばめられている。
 だけど、本書を薦める理由はそこではない。
 この小説は、芽が出ずに苦しんでいる投稿者に勇気を与えてくれる。著者のような実力のある作家でも、十七年間も結果を出せずに苦労していた時期があったのだ。何度投稿しても落選し、周囲からも作家なんてなれるわけがないと諭されながら、それでも自分の可能性を信じて原稿に向かい続ける姿を見て、勇気づけられないわけがない。
 
 自分に才能があるのか、今でもわからない。だけど、仮に才能に欠けていたとしても、努力することで小説を書く力はいくらでも伸ばすことができる。それが、ハウツー本を読んで新人賞を受賞した僕の実感である。
 このエッセイを読んでいる方の中に作家志望者がいたら、ぜひ今回紹介した本を読んでみてほしい。筆力向上のきっかけになることを願っている。


著者プロフィール

近況:
最近は、『努力しないで作家になる方法』の続編、『作家で十年いきのびる方法』を読み返しています。十年後、僕はどうなっているのでしょうか……。そして、いよいよ今月(二十二日頃)にデビュー作『シャガクに訊け!』が出版されます。消費税増税直後という、お金を使うことへの心理的抵抗が大きい時期ですが、どうかよろしくお願いします。

大石大(おおいし・だい)
1984年秋田県生まれ。法政大学社会学部卒業。現在は公務員。『シャガクに訊け!』で第22回ボイルドエッグズ新人賞を受賞(2019年2月1日発表)。競争入札の結果、受賞作は光文社が落札。2019年10月22日発売。
☞ 第22回ボイルドエッグズ新人賞発表/講評
☞ 第22回ボイルドエッグズ新人賞受賞作/入札結果発表!


Back Number 2019

10月のお題:デビュー
褒められる鼻の穴…………………尾﨑英子
デビュー戦………………………小嶋陽太郎
作家デビューのためのブックリスト…大石大
しおちゃんの牛乳パック…………園山創介
一人暮らしデビュー…………………黒瀬陽

9月のお題:月
夏の終わりに思うこと……………尾﨑英子
致命的な勘違い………………………大石大
満月が好き………………………小嶋陽太郎
北海道レーダー……………………園山創介
月の光…………………………………黒瀬陽

8月のお題:少年時代
自転車に乗る練習…………………尾﨑英子
嫌いな食べ物のクセがすごい………大石大
明け方の秘密………………………園山創介
小三の魂…………………………小嶋陽太郎

7月のお題:炭酸
缶チューハイの沼…………………尾﨑英子
炭酸は大人の味………………………大石大
くるくる回る………………………園山創介
神戸居留地………………………小嶋陽太郎
力水神とコーラの修行………………黒瀬陽

6月のお題:雨の訪問者
上京はしたけれど……………………大石大
勝手に訪問…………………………園山創介
地下鉄のザジ……………………小嶋陽太郎
十七歳の地図…………………………黒瀬陽

5月のお題:新元号
枠組み…………………………………大石大
フラミンゴ………………………小嶋陽太郎
ワンランクアップ…………………園山創介
令和最初の缶ビール…………………黒瀬陽
令和だからこそ行っておきたい天守閣・大阪城編
         ………………尾﨑英子

令和になったからこそ行ってみたい清水寺編
         ………………尾﨑英子


4月のお題:新社会人
囲碁将棋部の世話役………………尾﨑英子
就職前のゴールデンタイム…………大石大
ミニ警察…………………………小嶋陽太郎
ゴールデンルーキー…………………黒瀬陽
ぐるイブ……………………………園山創介

3月のお題:花霞
萬代先生……………………………尾﨑英子
ある日のこと……………………小嶋陽太郎
サイクリングロード………………園山創介
宮島の紅葉、弥山の梅………………黒瀬陽

2月のお題:謎
ばったり会う人……………………尾﨑英子
宮島スイーツの謎……………………黒瀬陽
チンチン電車………………………園山創介
子どものころの不思議なできごとシリーズ
       …………………小嶋陽太郎


1月のお題:新年の挨拶
知らねえアメリカ人どころの騒ぎじゃない
       …………………小嶋陽太郎

良き朝………………………………園山創介
猪突のご挨拶…………………………黒瀬陽
ありがたい…………………………尾﨑英子

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