第12回ボイルドエッグズ新人賞発表!
2011年2月21日

第12回ボイルドエッグズ新人賞 2作同時受賞

白馬に乗られた王子様  石岡琉衣
(エントリーNo.15)

作品内容:
19歳の美月は子供の頃から毎晩「白馬の王子様」の夢を見ていた。ところが、ある晩、夢の中に白馬とともに王子が現れ、こんなことを言う。私が禁を破り、あなたに夢を与えすぎたせいで、あなたは一生恋ができなくなりました。私たちは本物の王子と白馬でなく、「王子」と「白馬」の役を演じているだけの存在だったんです。なんだってー!? と嘆く美月に残された道はただひとつ。あと二日で現実の世界で恋に落ちる相手を見つけること。こうして、二人と一頭の、二日間だけの恋をめぐる冒険が始まった! 比類なき面白小説をひっさげて、天性の物語作家、彗星デビュー。

著者紹介:石岡琉衣(いしおか・るい)
1974年7月19日、富山県生まれ。名古屋大学法学部卒。TV局に勤務後、漫画家となる。石岡ショウエイ名で週刊少年ジャンプに連載をもつも、原因不明の病に倒れ漫画家の道をいったん断念。現在は療養しながら創作活動の道を模索している。

をとめ模様、スパイ日和  徳永 圭
(エントリーNo.25)

作品内容:
新人賞の〆切が迫っていた。コールセンターで働きながら少女漫画家を目指す私は、早25歳。ある日、コンビニの前で冴えない中年男性とぶつかり、投稿原稿を見られてしまう。動揺しつつも出勤した私の前に、新センター長として現れた男性。彼はなんと、今朝ぶつかった中年のおじさんだった。トップシークレットを握られた(のかどうなのか?)私の焦りをよそに、新センター長はつかみどころのない笑顔と不思議な魅力でまわりを巻き込んでいく。漫画に仕事に恋(?)に揺れ動く二〇代女性の心情を端整な筆致で描いて、新たな新世代作家、鮮烈デビュー。
 
著者紹介:徳永圭(とくなが・けい)
1982年生まれ。京都大学総合人間学部卒。メーカー等に勤めた後、現在無職。趣味は旅行、温泉。名古屋市在住。
選考過程
1 第12回ボイルドエッグズ新人賞には、総数76作品のエントリーがありました。第12回エントリー作品
2 慎重な検討の結果、最終的に、石岡琉衣『白馬に乗られた王子様』、徳永圭『をとめ模様、スパイ日和』の2作が受賞となりました。受賞作は近く産業編集センター出版部より単行本として出版されます。刊行の詳細はあらためて告知します。
第12回ボイルドエッグズ新人賞講評   村上達朗

 今回は読みごたえのある力作が多く、また作品傾向もバラエティに富み、選考が楽しめました。年末から読み続けた結果、ちょっと目がシパシパしてしまいましたが(笑)。ただ同時に、応募作に共通する欠点も目につきました。おしゃべりな文章、饒舌な文体が多いのです。ことばを垂れ流している。なぜそんな傾向が生まれたのでしょうか。近年、既存の小説に「おしゃべりな」小説が多いので、それがいいんだと思わされているのかもしれません。また、一人称を使うと書きやすいということもあり、歯止めが利かず、ついつい書きすぎてしまうのかもしれません。しかし、小説は元来、行間を読ませる・感じさせるものなのです。極端な言いかたをすれば、推敲のときに口に出して読んで饒舌に感じられた部分はどぶに捨て、残ったところが小説だというくらいに考えてもらいたいと思います。「行間を読ませる。行間になにかがあるように感じさせる」小説と、「ことばを垂れ流し、行間まで隈なく埋め尽くした」小説のどちらがすぐれているか。どちらが「面白いと思える小説」か。いうまでもないでしょう。応募者には、行間にこそ小説の面白みが隠されているということを知ってもらいたいと思います。
 
 そんな中、とびきり「面白い小説」がありました。それが石岡琉衣氏の『白馬に乗られた王子様』でした。この小説からは、面白い話が湧き水のようにこんこんと出てくる作者の才能を感じました。作りに作った突拍子もない設定の小説です。へたを打つと「きわもの」に脱してしまう設定なのに、決してそうは感じさせません。主人公や脇役たちの感情、心情がずれることなく、やわらかい文体で正確に描かれているので、違和感なく主人公たちに感情移入できるからです。ファンタジーとしても、異世界に主人公を行ったきりにさせず、あちらの世界を覗かせては必ずこちらの世界に戻させます。そのバランス感覚。たいへんな才能が目の前に出現しつつある、と小生は感じました。嬉しくなり、久しぶりに興奮も覚えました。設定で一部、「さすがにリアリティがなさすぎる」ところがあるので、そこを改稿できれば、「類例のない」小説が誕生します。
 
 もう一作、今回非常に感心した作品が、徳永圭氏の『をとめ模様、スパイ日和』でした。一人称の文体で、しかも作家(漫画家)志望者という、小生が以前講評(第9回講評を参照のこと)に書いている「新人の禁じ手」を使いながらも、自意識過剰のおしゃべりの罠に脱することなく、等身大の二〇代半ばの女性をヴィヴィッドに描いているのです。文章が簡潔で的確であるために、主人公の揺れ動く心だけでなく、主人公をとりまくコールセンターの同僚、その様子、そこで起こったある出来事が、手に取るように読者に伝わります。漫画家志望者の周辺の描き方も、出版業界にいる小生のような読者から見て、違和感がまったくない。こうしたことは、作者に客観性のある視点・描写力が備わっていなければできないことで、キャリアのない新人にとっては至難の業なのです。新人作家の、同世代の人間を描いた作品を読み、そのセンスにこれほど感心させられたのは、思い起こすに、三浦しをんの『格闘する者に○』の原稿を読んで以来かもしれません。やや書き急いだ箇所があり、そのへんを中心に全体にボリュームアップさせられれば、新たな新世代作家が誕生します。楽しみな才能が現れました。
 という次第で、今回はどちらか一作に絞ることがどうにもできず、二作受賞となりました。乞うご期待!!です。
 
 受賞作のほかに、気になった作品をいくつか取り上げます。

 藤田佐知氏『スカイウォークを駆け抜けて』は三〇代後半の女性の婚活の模様を過不足ない筆致で描いています。物語にも文章にも破綻がなく、独身女性の揺れ動く心情を等身大に描いていて、面白く読めました。が、これを新人の作品として見たときに、この破綻のなさが、かえって作品としての特徴のなさ(婚活小説は既存の小説にいくらでもある)に、まとまりのよさが新人作品としての古くささになるように感じました。タイトルも素直すぎるので、できれば『スカイウォークを逆走する』とするくらいの冒険心がほしいと思います。
 
 小山青夏氏『謙虚な雑草(短篇集)』はそのタイトル・イメージとは裏腹に、モテ顔の男がたどる数奇で皮肉な人生を描いた「スター顔」にしろ、全国各地から集まった変態たちで作る「札幌変態倶楽部」のお話にしろ、個々の短篇はむしろアクの強い内容です。好き嫌いは別にして、個々の話は面白く、文章も悪くはないのですが、話にもうひとひねりほしいのと、ラストがどれもいまいちなところが欠点だと思いました。たぶんお読みになっているとは思いますが、こうした短篇を書くなら、ぜひ乙一を読んで勉強してもらいたいと思います。短篇はラストの鮮やかさが命で、そこがぬるいと、途中がどんなに面白くても読後の評価が下がってしまうものなのです。また、これは作品の善し悪しとは別ですが、原則として、短篇というのは作家志望者にとって、きわめてハードルの高いジャンルだということも知っておいてください。短篇一本では本にならず、本にするためには、「すごい短篇」を何作もものしなくてはならない。しかも、そうしたところで、短篇集は長篇のようには売れないものだからです。短篇で勝負するなら、その(短篇でデビューすることの)むずかしさを知った上で挑戦すべきです。
 
 小林巧氏『鎖国(ひとり)でできるもん!』は、出だしを読んだときには、「これは当新人賞にふさわしい、類例のない作品」になるかもしれないと興奮しました。掛け声だけは勇ましい昨今の「グローバル化の時代」に背を向け、「日本は鎖国で生きるべきだ」と主張する作品なのです。すばらしい(笑)。作者は三〇代初めであり、これはいわば「日本のロスト・ジェネレーション」世代による、現代日本社会へのアンチテーゼなのです。文章もうまく、ひたすら知力を駆使して、分析と理論を展開していきます。小説的感興とは異なる作品ですが、その志は良し!です。ところが、途中から鎖国の話はなぜかどこかに行ってしまい、話題が道徳論やら美、理想論など、どんどん抽象論になっていきます。また、試験という設定にしてあるために、話が「お勉強」になってしまい、物語の展開にふくらみがなくなっているのも問題です。「まほろば」という架空の国家など使わず、ひとつの逆説として最後まで「鎖国」で論陣を張れたら、そしてそこに小説的感興も盛り込むことができていたら、とんでもなくユニークな作品が生まれたのに、と残念に思いました。
 
 成田名璃子氏『逃げる雪男、追う鬼女』も、どこかとぼけた味わいのある文章がよく、前半途中までは話の展開も面白く、かなり期待を抱かせました。具体的には、銀の角が生えてしまった主人公が温泉宿の洞窟に入っていくところまで、です。その後、雪男と邂逅してからがつまらなくなる。どんな物語が展開するのだろうと思いきや、結局異界の雪男も主人公の物語に取り込まれてしまうからです。物語には展開力が必要で、この場合は主人公にとって深刻な問題(失恋)とは別の要素・別の世界、つまり第三者の目を導入することで、主人公の問題を相対化してやらねばならなかったのです。(本人が抱える問題など、どんなに深刻そうに見えても、他人から見れば取るに足らないことだ、という視点です。実際にそうであるかどうかはともかく)。せっかくのアイディアを生かすも殺すも、展開力。洞窟の向こうには、もっと意想外の世界を用意してほしかったと思います。主人公のためにも。
 
 以上、今回の講評とします。ここに取り上げていない応募作・応募者にも参考になるようにと書きました。参考にしていただいたあとは、ぜひ自信を持って執筆に取り組んでください。次回もみなさんの成果に期待しています。



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